ガザ、少なくとも学ばなければ

村上 靖彦 精神分析学・現象学者
エンタメ 国際 読書

『庭に埋めたものは掘り起こさなければならない』齋藤美衣/医学書院

『世界の適切な保存』永井玲衣/講談社

『中学生から知りたいパレスチナのこと』岡真理・小山哲・藤原辰史/ミシマ社

『庭に埋めたものは掘り起こさなければならない』これは、痛みの本である。急性骨髄性白血病での入院と寛解、双極性障害による自死未遂からの医療措置入院、摂食障害、自閉スペクトラム症、性被害、身体感覚の違和、そして短歌と料理。1日になんども訪れる「死にたい」という思いのなかで、著者は自身の生を痛みとともに、しかし優しく見つめ言葉にしていく。この自らに向ける優しさゆえに、深い傷にもかかわらず読み進めることができた。

 対話をつづけるとはどのような営みか。『世界の適切な保存』で著者は、小学生から社会人までさまざまな人との対話を重ねる。並行して、美容院の鏡に映る自分の姿や電車に迷い込んだハエといった、生活のなかで出会うほんの少しの違和感や驚きに目を向け、そこから思索を深める。日々のディテールから世界と出会おうとする営みとしての繊細な哲学だ。そのとき手がかりとなるのはちりばめられた現代短歌だ。私は本書を詩論として読んだ。

 

 細部への注目はしかし、最後の最後で著者の目をガザでの虐殺へと向けさせることになる。

 ガザの虐殺について、パレスチナをめぐる歴史と現在のガザ、ナチスドイツを戦後ドイツがどのように扱ったのか。入植者植民地主義の視点から描いたのが、『中学生から知りたいパレスチナのこと』だ。ナチスがソ連で計画した飢餓計画をイスラエルが模倣するなかでの食料安全保障、農業メジャーの動向、イスラエルを形作ったポーランドを中心とする東欧ユダヤ人の歴史といった視点で多面的に語りつくされる。そして日本人もまた加担する加害者であるという視座が重い(日本の植民地主義も議論されるが、アイヌや沖縄に対して現代も続く問題も意識できていれば……)。

有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。

記事もオンライン番組もすべて見放題
今だけ年額プラン50%OFF!

キャンペーン終了まで時間

月額プラン

初回登録は初月300円・1ヶ月更新

1,200円/月

初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。

オススメ! 期間限定

年額プラン

10,800円一括払い・1年更新

450円/月

定価10,800円のところ、
2025/1/6㊊正午まで初年度5,400円
1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き

電子版+雑誌プラン

12,000円一括払い・1年更新

1,000円/月

※1年分一括のお支払いとなります
※トートバッグ付き
雑誌プランについて詳しく見る

有料会員になると…

日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事、全オンライン番組が見放題!

  • 最新記事が発売前に読める
  • 毎月10本配信のオンライン番組が視聴可能
  • 編集長による記事解説ニュースレターを配信
  • 過去10年6,000本以上の記事アーカイブが読み放題
  • 電子版オリジナル記事が読める
有料会員についてもっと詳しく見る

source : 文藝春秋 2025年1月号

genre : エンタメ 国際 読書