
「冤罪はあってはならない。誰もが分かっていることなのに、なぜ、繰り返されてしまうのか? 冤罪研究の出発点は、そんな素朴な疑問でした」
若くして日本の「冤罪学」の第一人者となった、元裁判官で弁護士の西愛礼さん(33)。2016年に千葉地裁判事補となり、2年間で6人に無罪判決を言い渡した。裁判官として目にしたのは、無実を主張するほど身体拘束が長引く「人質司法」や、検証制度のない冤罪事件の実態だ。21年に弁護士に転身すると、不動産会社「プレサンスコーポレーション」山岸忍元社長冤罪事件の弁護団に加わり、異例の保釈を実現した末、無罪を勝ち取った。
「大阪地検特捜部の捜査により、業務上横領容疑で逮捕・起訴された山岸さんは、248日に及ぶ長期勾留に耐えながら無実を訴え続けました。私も、人質司法や冤罪事件をなくすためにできることは何でもしようと、腹を決めました」
「冤罪学」立ち上げの必要性を痛感した西さんは、23年に『冤罪学 冤罪に学ぶ原因と再発防止』(日本評論社)を出版。個別事件の責任追及ではなく、冤罪の起こる「メカニズム」に焦点を当て、世界中の冤罪研究を集約・体系化した画期的な内容だ。この学術書を一般読者向けに編み直したのが本書である。

「人は誰しも間違える。冤罪研究ではこの大前提に立ち、エラーが起こる仕組みを、法学、心理学、社会科学などの学問を総合し解き明かします。また、同じく人命にかかわる医療・航空業界の事故再発防止策も参照しました。逆説的なことですが、『あってはならない、あるはずがない』とタブー視するのを止めて直視することが、間違いを無くす第一歩になる。司法においても、間違いから学ぶシステムの構築が急務なのです」
奇しくも昨年には、袴田事件の袴田巌さんの無罪判決が確定した。
「日本では、逮捕報道によって容疑者が直ちに“犯人視”されることも、冤罪の一因となってきました。SNSが普及した現代では、メディアだけでなく一般人も加担する可能性があるのです。袴田事件を機に冤罪にスポットライトが当たる今こそ、多くの人に冤罪や人質司法について知り、考えてもらいたい。例えば、郵便不正事件で無罪となった村木厚子さんの『私は負けない』(中央公論新社)、山岸忍さんの『負けへんで!』(文藝春秋)、角川歴彦さんの『人間の証明』(リトルモア)は、国家による理不尽を自分事として体感できる良書です。ぜひ手に取ってみて下さい」
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