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「死」への恐怖心
私は幼少期から「死」を怖がっていた。「兵隊さんになる」と言えば褒められた時代に、「兵隊は嫌だ。死ぬのが恐い」と言う子だったと、母がよく語っていた。その恐怖心は、大人になってもずっと持ち続けた。
それが現実味を帯びたのは63歳、前立腺がんを宣告された時だ。
2月号、山﨑努氏と次女の山崎直子さんの『食道がん体験報告 生存率15%からの生還』を読み、あのころを振り返った。下腹部に軽い痛みを感じ、通院中の泌尿器科で何気なく「がんでは?」と言ったら、「気になるなら検査を」と応じてくれた。全摘手術で決着したが、その後約20年の間に、食道を含む3つのがんが早期発見された。山﨑氏は胆嚢炎の猛烈な痛み、私は死への恐怖、きっかけは違うが、担当医や家族の対応に生かされたのは同じだ。
しかし、山﨑氏のがんとの闘いは壮烈だ。抗がん剤治療専門の医師に「もう充分生きましたから」と言ったところではドキリとした。普通はそこで「だから平穏な死を」と続くものだが、その言葉で担当医は治療方針を決断した。そして、担当医を信じた山﨑氏の強さが生まれたのだ。抗がん剤の副作用に耐え、リハビリに努める強い意志に感動した。
直子さんの強さも印象的だ。毅然として、主治医にもの言い父上を励ます。愛に基づく優しい強さ。医療関係者が山﨑戦士を援護する作戦参謀、射撃手なら、ご家族は笑って話せる戦友だろうか。今後も頼るべきところは頼りながら、氏らしく生きてほしい。
並べて言うのもおこがましいが、同い年の私もあやかりたい。死への恐れは薄れつつあるが、生かされた命を私なりに生ききりたい。
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source : 文藝春秋 2025年3月号