ギタリストの足元。奏者がエフェクターを踏んだ途端、ギター本来の音であるクリーン(クリーントーン)が過激に変化し、自分が主役だと言わんばかりのプレーを披露する。エフェクターという足元の小宇宙が、プレーを、奏者の心を、観客の心を、熱く加速させていく。昨年12月、エフェクターのみに特化した番組「ドキュメント20min.『NO EFFECTOR, NO LIFE.』」を放送し大きな反響をいただいた。私がどうこの番組を制作したのか、非常におこがましいが、依頼を頂いたので書ける限り書いてみる。

入局して4年。私は普段の番組制作でもやもやしていた。それは上司の「そんなマニアックなことわかんないよ、もっとわかりやすくならない?」という言葉に常々引っ掛かっていたからだ。NHKでマニアックな内容が避けられやすい理由の一つに「視聴者にあまねく伝える」を掲げているということがある。しかし私は、現代はマニアックな番組も必要だし、見せ方にこだわれば視聴者にあまねく届くのではと考えていた。そこに「ドキュメント20min.」という番組の企画募集がかかる。全国の若手制作者が自由な発想で新しいテレビの形を模索する番組。普段できない演出に挑戦するチャンスだと思い、エフェクターの番組の企画書を作った。
大変だったのは採用されてから。人選も演出も具体的にどの程度までマニアックにして良いか逡巡する日々。エフェクターは私にとって思い入れが強すぎる題材だった。京都府宇治市に生まれギターとエフェクターに夢中だった学生時代。先輩に安く譲ってもらった思い出、あこがれの人のサイン、踏み倒してできた傷……エフェクターにはそれぞれの物語があり、そこには必ず人が表れる。一方で、入局後の4年間はマニアックを避け続けた経験があった。その乖離から、結局私は迷走した演出案を7本も書いてしまう。これを見たプロデューサーは言った。
「人と音のこだわりをとにかく深く描いて、深さで私たちも視聴者もビビらせてほしい」
この言葉が悩みを振り切ってくれた。

徹底してマニアックに。出演者も、知名度より思いのこもった人選で、とすべて任された。裏ブタを開けた時の匂いがたまらないという偏愛ぶりをみせてくれたエフェクター収集・研究家の細川雄一郎さん。日本ブランドを取材する中出会った、悶々とした心をロックギターが晴らしたという話に大共感したエフェクター製作者の手塚大哉さん。伝説のバンド、ナンバーガールのギタリスト田渕ひさ子さんとは、オファーの際、予定より2時間以上も長くエフェクター談義で盛り上がった。
さらに番組では、専門用語は注釈しない、小ネタやオマージュをちりばめる、スイッチの音はすべて別録りして重ねる……などマニアにだけわかる演出を仕込み、さらに映像加工もBGMもテロップも、音と映像を連動させ趣向を凝らした。
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