カラヴァッジョ《キリストの埋葬》がヴァチカン市国から貸し出され、今年の大阪・関西万博で展示されているという。カラヴァッジョの最高傑作にして、生前からもっとも賞賛されたこの名作が来日するのは2度目である。2021年には国立新美術館でこの作品を中心とする展覧会が開催される予定で、カタログも完成していたが、新型コロナウィルスの影響で輸送困難となり、中止となった。多くのファンが涙をのんだため、今回の来日を心待ちにしていた人も多いだろう。
この名画が最初に来日したのは、1989年の春から夏に国立西洋美術館と京都国立近代美術館で開催された「ヴァチカン美術館特別展」のときであった。読売新聞社などの主催であったが、このときはカラヴァッジョのことは話題にもならず、ポスターやチラシのメインビジュアルはメロッツォ・ダ・フォルリの《奏楽天使》であった。
当時、兵庫県立近代美術館の新人学芸員であった私は、《キリストの埋葬》が来ることに興奮し、にもかかわらずほとんど広報されていないことに不満を抱き、美術館に来た読売新聞の記者にそのことをなじったところ、「じゃ、なんか書いてくれ」と言われ、カラヴァッジョの記事を書くことになった。「近代絵画の原点カラヴァッジョ」という大きな記事になり、それが私の活字デビューとなった。カラヴァッジョが西洋美術史上いかに重要で、彼以降の美術がいかに変わったか、《キリストの埋葬》がいかにすばらしいか、などについて熱っぽく書いたのである。
カラヴァッジョの名を知る人は当時ほとんどいなかった。もちろん日本には作品はなく、展覧会にもほとんど来たことはなく、美術全集にもこの画家が入っていることは稀であった。幼少のころこの画家のことをテレビでたまたま知った私は、美術史の道に進み、卒業論文も修士論文もカラヴァッジョについて書いて研究してきた。
2001年、「日本におけるイタリア2001年」の記念事業で朝日新聞社などの主催により、東京都庭園美術館と岡崎市美術博物館で日本初のカラヴァッジョ展が開催され、私はカタログの監修を務めた。このとき、東京会場では入場に長蛇の列ができ、隔世の感を抱いたものである。さらに2016年には国立西洋美術館でカラヴァッジョ展が開催され、やはり大きな話題となった。

私もこの20年あまりでカラヴァッジョについての本や画集を10冊ほど出版することができ、この画家の知名度の向上に多少は貢献したと自負している。
カラヴァッジョの作品の魅力は、第1に迫真的な写実描写であり、次に劇的な明暗表現、さらに鑑賞者の視点や空間を意識した画面構成にある。
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