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有働由美子のマイフェアパーソン 第33回

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news zeroメインキャスターの有働さんが“時代を作った人たち”の本音に迫る対談企画「有働由美子のマイフェアパーソン」。今回のゲストは、作家の原田マハさんです。
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原田さん(左、撮影/ZIGEN)と有働キャスター

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 有働 はじめまして。私、原田さんの小説で最初に読んだのが、『本日は、お日柄もよく』なんです。スピーチが苦手な政治家の秘書の方から相談を受けた時に、主人公がスピーチライターとして成長していくこの本をおすすめしました。「絶対、政治家は読んだほうがいいです!」って。

 原田 ありがとうございます。選挙のたびに政見放送やスピーチを聞いては、この人は読んでいるかな、いないかなと思う時があります。

 有働 原田さんはこの本でスピーチの極意を掘り下げて書いていらっしゃるので、コロナ禍におけるリーダーの発信をどう思っていらっしゃるんだろうと気になっていました。

 原田 いきなりホットな話題(笑)。閣僚の国会答弁などでは、いかにも官僚の作ったペーパーを読んでいるだけという印象はあります。言葉のプロである有働さんもお感じになっていると思うんですけど、原稿を読まず、伝えたいことを心に刻んで、心の声で語りかけるのがどれほど大切か。このことを、日本を動かしていく立場にある方々には肝に銘じていただきたいですよね。

 有働 本当にそうですね。全てではなく、大事なメッセージになる部分だけでも、なぜできないんだと。この本を、これまで取材してきた永田町界隈の人たちに送り続けます!

 原田 それは素晴らしい! 有働さんから送られたら、相手も読まずにいられないでしょうからね(笑)。

アートの旅をずっとしている

 有働 最新作『リボルバー』は、アート史上最大の謎「ゴッホの死」に迫るお話ですが、夢中になって読ませていただき、私の中ではゴッホとゴーギャンはすっかりこの小説のイメージになりました。原田さんはキュレーターとして美術展のプロデュースなどを手掛けてこられましたが、史実を調べ上げる研究者とフィクションを創作する小説家は本来、相反する仕事ですよね。

 原田 やっぱり全然違うものですね。研究者は史実に反することはできません。ただ、今の私は、自分の創作がキュレーターをはじめアートに携わる人たちの後押しになればいいなと。私の小説が入り口になればいいし、最後は良き出口でもあってほしいと。

 有働 入り口であり、出口?

 原田 アートに対して「全然興味ない」とか「ハードルが高い」と思っている方もいると思います。そういう方々も、小説ならとっつきやすいかもしれない。この作品は今夏、関ジャニ∞の安田章大さん主演で舞台化され、脚本は私が担当しました。小説や舞台をきっかけに、ゴッホとゴーギャンの2人の天才画家の関係に興味をもつ、そうした入り口になることもあると思うんです。

 有働 たしかにそうですね。

 原田 ゴッホとゴーギャンの作品はオルセー美術館へ行けば見られますし、日本にも彼らの作品はあります。だから、小説の世界で面白いと感じたら、そこから現実の世界へと踏み出していただきたい。自分にマッチする作品は何かを自分の目で確かめて、その作品について自分で調べていただきたい。それが私の出口戦略なんです。

 有働 そんな出口まで考えていらっしゃるんだな。私も読み終えて、見に行きたくなりました。アートって知識がないと見たり語ったりする資格がないと気後れしてしまいます。でもこの本で、子どもの頃の「これを描いた人ってこんな人かな」と想像する楽しさとか、ゴッホの絵のここが好きと純粋に感じる気持ちを思い出させてもらった気がします。

 原田 ありがとうございます。小説を書いている時にいろいろ調べていくと思いがけない発見があるんです。『リボルバー』の表表紙と裏表紙にゴッホの「ひまわり」2点を使わせていただきました。表表紙は、ゴッホがフランス・アルルでゴーギャンを迎えるために描いたもの。それをゴッホ自身が模写したものを裏表紙に使いまして、こちらは日本のSOMPO美術館で見られます。どちらも同じ1888年に描かれた、まさに双子のような絵なんですが、実はこの2つの絵がゴッホとゴーギャンの関係性を物語っているんです。

 有働 本のカバーにまでそんな仕掛けが! 未読の方のためにも、そのお話の続きはぜひ本で味わってもらいましょう。

 原田 私は小説家として、作品に隠された物語を探しに行くアートの旅をずっとしているんだと思います。そうして見つけた物語を読者の方に伝えていきたいと思っています。

①リボルバー
最新作『リボルバー』

「マハ」の由来

 有働 ところで、ある時、本屋さんで原田さんのお名前を発見して「マハ」ってなんだろうと調べてみたんです。画家のゴヤが描いた「裸のマハ」「着衣のマハ」が由来、ということでいいですか?

 原田 そうです。私はキュレーターとしてアートの世界に片足を突っ込んだまま作家活動を始めた時、ペンネームにしたんです。マハにした理由は2つあって、アートに由来する名前がよかったのと、サインがサッと書けるから(笑)。

 有働 かわいい理由(笑)。調べていたら、スペイン語で「小粋な女」という意味があるみたいですね。

 原田 そうなんですよ。昔の日本でいうモボ、モガみたいな感じで、男性はマホ、女性はマハって言うらしいです。これに関してはすごく面白い、とっておきのエピソードがあるんですけど。

 有働 ぜひ聞きたいです!

 原田 15年前、『カフーを待ちわびて』という作品でデビューが決まった時、舞台のモデルである沖縄の伊是名島の方々にお礼に行かなきゃと思って、本と、まだ名刺がなかったから手書きの名刺を作って持っていったんです。そうしたら村長さんが、村民たちを集めて歓迎会をしてくださって。そこに来てくれたおじいに「こういうものです、応援してください」と名刺を渡したら、そのおじいが、じーっと名刺を見て言ったんです。「あー、いい名前だね。又八さん」

 有働 又八!?

 原田 女性なのに又八って!(笑)。その衝撃が忘れられなくて、時々ジョークで川柳を書くんですけど、雅号を又八にしています。

 有働 うわあ、それも含めて、いい名前ですねえ。マハかつ又八。小粋な女であり又八ですもんね(笑)。

 今はどこが拠点ですか?

 原田 ホームにしているのが長野県の蓼科の家で、東京とパリにも拠点があります。昨年からはコロナの影響で移動が制限されていますが、それまでは2か月おきくらいに3拠点を移動してはうろうろして、自称「フーテンのマハ」です。

ピカソと一対一で向き合った

 有働 蓼科、東京、パリ……絵に描いたような女性の憧れの生活で羨ましいかぎりです。

 原田 移動が好きなんですよ。マグロみたいと言われたことがあります。止まると死ぬという(笑)。

 有働 拠点を回遊しているわけですね(笑)。昨年4月にパリからお戻りになるまでは、現地でどう過ごされていたんですか?

 原田 2020年3月の出来事は一生忘れないと思います。パリがロックダウンになる直前、ピカソ美術館に一人で行ったんです。普段なら立錐の余地もないくらい混雑しているのに、その日は、コロナの影響で他の人が誰もいなかった。一般客として行ってピカソの絵と1対1で向き合えたのは、あれが最初で最後だと思います。

 有働 それはある意味、贅沢なことですよね。

 原田 そう思います。オルセー美術館でも、ゴッホが描いた、アルルでゴーギャンと共同生活した家の寝室の絵の前に、私しかいない状況を体験しました。これは普段から思っていることですが、どの作品も、元は画家がカンヴァスと1対1で生み出した作品ですよね。私は絵画の前に立つ時、自分が今いる位置はかつて画家がいた立ち位置だ、自分の目は画家の目なんだ、と考えるんです。

 有働 画家の目?

 原田 これは有働さんにもぜひ試していただきたいんですけど、作品から筆の長さである25センチくらい、プラス自分の腕の長さというのが画家の立ち位置なんです。

 有働 そうか、そういう視点で考えたことがなかったです。

 原田 私は最近それをすごく意識していて、腕を伸ばして、その先に筆があると想像して、ゴッホやゴーギャンやピカソがいた位置に立つ。彼らを伝説の中の人間じゃなく、実在した人だと意識して見るんです。今回のコロナ禍で作品と一対一になった時には、その場にフーッと画家のスピリットが降臨したような、不思議な気持ちにさせられました。

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オルセー美術館

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source : 文藝春秋 2021年10月号

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