独創的な批評活動で名を成した文芸評論家の小林秀雄(こばやしひでお)(1902―1983)は、『ドストエフスキイの生活』『無常という事』『本居宣長』『考えるヒント』など多くの著作を残した。
作家の石原慎太郎(いしはらしんたろう)氏が小林との出会いを綴る。
鮮やかな人生というのは何をもって計るのだろうか。
人間にはそれぞれの生きざま死にざまがあってしかるべきで、それを余人が何と判断しようと当人には関わりあるものではあるまい。人間にはそれぞれの個性があり、それが表象する感性があり、それが形作る所産としてのさまざまな行為があろう。それが織り成してつくる人生を、他人が簡単に計って評することは容易に出来るものではないが、ただはたから眺めていていかにもうらやましい、いかにも共感をそそられる、いかにも痛快な、あるいは爽かな生き方というものは在る。
その共感のよすがもいろいろありはしようが、私のような人間にとっては、己の自我を貫き通して生きた人間こそがたまらぬ魅力の人に見える。いい換えれば、きわめて個性的な人、さらにいい換えれば、己の感性のままに生きた人ということであるが、史実としてはそうした人間を散見はしても、自分の人生を重ねて眺めた相手として探せばそう容易なことではない。
私は幸運にも若くして世にでられたお陰で、今では伝説化されてしまった観のある、かつて強い存在感を示して生きた何人かの人々に直接出会うことができた。私がまみえたそうした人々は、いわゆる文壇、財界、政界といった分野の人達だけだが、同じ世界に今日同じような人達を見受けることが出来るかと思えば、いかにもおぼつかない。
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source : 文藝春秋 2002年2月号