『晩春』『麦秋』『東京物語』など54本の作品を撮った映画監督の小津安二郎(おづやすじろう)(1903―1963)は、「小津調」と呼ばれる独特の作風を持った。映画評論家の白井佳夫(しらいよしお)氏が小津作品の魅力を解説する。
明治36年に東京の深川に生れた、映画監督小津安二郎は、生涯に54本の作品を作って、60歳の誕生日である還暦の日に、その生を終えるという、まるで彼の映画そのものをシンボライズするような、端正な人生を送った人であった。
映画は英語で「ムービー」といい、「モーション・ピクチュア」という。「動くもの」であり「動く映像」である。それはそもそも、ヨーロッパ=アメリカ型の、動的でダイナミックな文明の反映として、生れてきたものなのである。

黒澤明の日本映画が、第二次大戦後に最初に世界に進出したのは、いわば万国共通のエスペラント語のような「モーション・ピクチュア」として、彼の作品が日本を描いていたからだ、といってもいい。
ところが、小津安二郎の映画は違った。日本的な静的な文化、スタティックな沈黙の中に総てを集約してしまうような基本をもった文明に根ざした、「日本的な映画」を、彼は確固たる信念をもって、作ったのである。
彼が戦後初めて、自分のペースを生みだした映画といっていい「晩春」は、昭和24年のアメリカ軍占領下の時代に、作られた作品であった。敗戦の4年後の、まだアメリカ的なものは総てがよく、日本的なものは総てが悪い、と思われていた時代である。
この映画は、鎌倉の円覚寺境内の茶会の描写で始まり、能楽堂での演能のシーンをクライマックスとし、京都の龍安寺の石庭や清水寺の舞台のシーンを、見所とする作品であった。
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source : 文藝春秋 2002年2月号