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「フィジカルの強さはもちろん、体を思い通りに動かすコーディネーション能力はピカイチです。体幹がしっかりしているので、レシーブをした後や、ブロックに跳んだ後、スパイク準備への動きも、体の軸がぶれないからものすごく速い。安定感という面では、(木村)沙織よりもしっかりしているのではないでしょうか」

 ワールドカップ大会中も、象徴的なシーンがあった。

 大会3日目の韓国戦。初スタメンの石川は、韓国のエースで「100年に1人の逸材」と称されるキム・ヨンギョンと、堂々のエース勝負を繰り広げた。

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 特に圧巻は第1セット、15-17と韓国が2点をリードした場面だ。日本のサーブをレシーブした、韓国、キムがレフトから日本のアタックライン付近へクロスに鋭角なスパイクを打つ。キムの代名詞とも言える強烈なインナースパイクだったが、コースに入っていた石川がレシーブ。しかも体勢を崩すことなく上に上げてセッターに返すと、今度はそのボールを自らスパイク。その威力に、レシーブコースにいたキムは体をのけぞらせ、16点目を手にした日本は、そのセットを逆転で制した。

©AFLO

9カ月前、春高バレーでの苦い記憶

 高校時代の経験が活かされた、という面では、もう1つ、特筆すべきシーンがある。

 2、3セットを韓国に連取され、セットカウント1-2で迎えた第4セット終盤。20-24と韓国がマッチポイントを握る、日本にとっては崖っぷちとも言える状況で、石川にサーブ順が巡って来た。

 2019年1月、高校最後の春高で今も消えない、苦い記憶がある。

 兄の祐希が愛知・星城高時代に成し遂げたように、最後の春高を制すれば、インターハイ、国体とあわせ「三冠」を達成する。

 準々決勝までは順当に勝ち進み、迎えた大分の東九州龍谷との準決勝。攻守で完璧な下北沢成徳対策を打ってきた相手に押されるまま、セットカウントは2-2。最終セットのプレッシャーのかかる終盤で、石川のサーブがエンドラインを割った。攻めに行った結果とはいえ、競り合った場面でのミスが尾を引き、フルセットの末に下北沢成徳は敗退。主将も務めた石川は「大事なところで決められなかったことが悔しい」と涙を流した。

 それから9か月。攻めなければ終わり。そんなプレッシャーのかかる場面で石川のサーブは韓国の守備を崩し、4点差をはね返す。ジュースの末、2点が及ばず試合は1-3で敗れたが、石川にとっては1つ、壁を越えるきっかけとなった瞬間だった。   

「自分の中でサーブは課題でもありました。ああいう場面で回って来て、『ミスをしないように』と思いながらも、チャンスサーブを打つだけでは相手に切り返される。この場所でコートに立っている自覚、責任は今までと違うのだから、弱気になるのではなく攻めて行こうという気持ちで思い切り打ちました」

来年20歳、東京五輪でエースとなれるか?

 11戦を終え6勝5敗。最終成績は5位と、メダル獲得を目指したチームにとっては不本意な結果に終わった。だが、初めて日本代表として日本での国際大会、しかもバレーボールの三大大会の1つであるワールドカップでデビューを果たした石川にとっては、課題も苦い経験も、すべてがこれからにつながる財産だ。

「最初は緊張していました。でもたくさんの応援の中で、最後まで戦い切れてよかった。

 高校の時は最後に大事なところで打ち切れなかった、決められなかった、という反省もありましたが、レベルの高い選手の中で同じようなことを繰り返していたら成長できない。気持ちの持ち方も、技術面も、まずは思い切って打ち切る。『みんながつないでくれたボールは絶対決める』という気持ちで、自信を持ってプレーすることができました」

 20歳で迎える、2020年の東京五輪へ向けて、ますます石川の進化は続くはずだ。石川祐希の妹、ではなく、女子バレー日本代表エースの石川真佑、となるために。