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以前は毎回新しいことをやろうとしていましたが、今はあまり新しい課題にはこだわらないようにと思っています――中島京子(2)

話題の作家に瀧井朝世さんが90分間みっちりインタビュー 「作家と90分」

2015/11/15

genre : エンタメ, 読書

note

作品集『のろのろ歩け』には珍しく自分の体験をそのまま使った小説も

――その次の『花桃実桃』(11年刊/のち中公文庫)は古びたアパートの管理人さんとなった女性と住人たちの話ですが、ここでも幽霊が出てきますものね。土地や旅も中島さんにとって大きなモチーフだと思います。『東京観光』(11年刊/のち集英社文庫)の表題作や、東京の移ろいを描く短篇集『眺望絶佳』(12年刊/のち角川文庫)は東京にまつわる話だし、『ツアー1989』や『のろのろ歩け』(12年刊/のち文春文庫)は旅がテーマになっていますよね。

花桃実桃 (中公文庫)

中島 京子(著)

中央公論新社
2014年6月21日 発売

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東京観光 (集英社文庫)

中島 京子(著)

集英社
2014年8月21日 発売

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眺望絶佳 (角川文庫)

中島 京子(著)

KADOKAWA/角川書店
2015年1月24日 発売

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ツアー1989 (集英社文庫)

中島 京子(著)

集英社
2009年8月20日 発売

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のろのろ歩け (文春文庫)

中島 京子(著)

文藝春秋
2015年3月10日 発売

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中島 東京は生まれ育った町なので、いちばんよく知っているし、いちばん好きな町なんですよね。実はデビュー作も東京の話なんですよね。あれは『蒲団』のパロディなんですけれど、田山花袋には『東京の三十年』というエッセイもあるんですよ。なので、あの小説を書いた時には、「東京の百年」という裏タイトルが私の中にありました。その時から東京の移り変わりとか、そこに流れる時間とかを書いているんです。デビュー作にはその作家のすべてが入っていると言いますけれど、本当にそうだなと思います。

――『眺望絶佳』は、東京タワーとスカイツリーの往復書簡が可愛くって、もう。

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中島 そう、スカイツリーってぬぼっとした感じで、ぱっとしない青年みたいに建っていますよね。あの感じが嫌いじゃないんです(笑)。

――作品集の『のろのろ歩け』はすべてアジアの話でしたね。北京と台北と上海。

中島 あれに「北京の春の白い服」という、北京の女性ファッション誌の創刊を手伝う女性の話が入っているんですけれど、それは珍しく自分の体験をそのまま使ったような小説です。出版社を辞めて、アメリカに行って帰ってきてすぐくらいの時に、ファッション誌を創刊するから中国へ行ってくれないかと言われて。雑誌のページを作っている部分はほとんど自分の話ですね。

――季節を先取りしてモデルに春服を着せて撮影したいのに、みんなが「冬服でいい」といって困ってしまうという、あの部分ですか。

中島 そうなんですよ。春服のページなのに、まだ寒いから冬服でいいと言われて、そんなのファッション誌じゃなーい! という(笑)。のちにレセプションのお姉さんがセーターをくれた時に「中国では春だからと言ってすぐに暖かい服をやめてしまうと身体に悪いから、冬の服を着て春に備えるんです」って言われてしまうという話で。

――それも実話なんですか。

中島 実際の自分の体験では、春のページは春のページでしょ! と言って雑誌を作って帰ってきて、全然別の時に中国に留学していた友達と話していた時に中国医学の考え方では……という話を聞いて「えー!」とびっくりしたんです。それで書いたんです。

――でも結局、今の北京の人たちは季節を先取ってますよね。

中島 先取ってます。もう北京のファッション業界はとんでもないことになっています。日本よりずっとお金もあるし。私が行った時とは全然違いますね。あれは直木賞受賞直後に『オール讀物』になにか書きませんかと言われて、「こういう話はどうでしょう」と言って書いて、せっかくだからちょっと女の子が海外に行くような話や仕事の話でまとめようということになり、他の2篇を書きました。

――そして、さまざまなパスティーシュ短篇を集めた『パスティス』がありますね。太宰治やシャーロック・ホームズのパスティーシュがあったり、社会風刺たっぷりのものがあったり…。これは短篇ごとにデザインや紙が違っていて、装丁も素敵ですよね。

パスティス: 大人のアリスと三月兎のお茶会

中島 京子(著)

筑摩書房
2014年11月10日 発売

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中島 いろんなところにポツン、ポツンと書いたものが半分くらい入っています。筑摩書房の人と何かやりましょうと話をしていた時に、そうしたものもなんとかならないでしょうかと相談したんです。

 筑摩書房はウェブページでの連載だったので、枚数もそれほど多くないほうがいいかなという話になりました。筑摩さんはそれこそ近代文学のパロディとかと、相性がよさそうな気がしたんです。で、私もすごく好きな分野なのにデビュー後は少し抑制していた部分もあったので、これはパロディ力全開みたいな感じでやってみました。楽しかったです。装丁もすごく可愛くて嬉しいです。