安倍首相ブレーンが説く「『教育勅語』の精神でボランティア」
安倍晋三首相のブレーンのひとりとされる、日本政策研究センター代表で、日本会議常任理事の伊藤哲夫は、『教育勅語の真実』(致知出版社、2011年)のなかでこう述べている。
「『東日本大震災』後の、世界も絶賛した日本人の冷静な行動とボランティア精神は、(中略)すでに失われていたと思われていた教育勅語の精神が日本人の心の中に民族のDNAとして、ささやかな形ではあれ、依然として残されていることを証明しました」
いきなりなにをいっているのかという感じだが、それだけではない。伊藤はここで「ささやかな形ではあれ」とやや及び腰だ。
その背景には、戦後の教育によって日本人の道徳観が衰退し、「老人の孤独死や親殺し・子殺し、若者のニートや引きこもり、教育現場の混乱、子供たちの方向性喪失、モラルなき政治の横行」などが生じているとの大局観がある。
それでも、震災に際して自衛官などの公務員が「自己犠牲をいとわず公のための任務を遂行」したのは、「教育勅語」に見える「一旦緩急アレハ義勇公ニ奉シ」の精神がかろうじて残っていたからだと伊藤はいうのである。
トンデモ本の「研究書を巧みにつまみ食い」する手口
なんだ、保守系のトンデモ本かなどと侮ってはならない。こうした「教育勅語」本は、いま密かなブームなのだ。
わたしの手元にある『教育勅語の真実』は、5刷を数える。それ以外にも、「教育勅語」本はこのごろ毎年のように刊行されている。
今回の森友学園をめぐる騒動を受け、「教育勅語」の歴史や意味を勉強してみようとネット書店などで検索をかけても、この手の本ばかりが上位にヒットしてしまう。これでは逆効果になりかねない。
一読すればさすがにその「トンデモ」ぶりに気づくのでは、との指摘もあるだろう。しかし、「教育勅語」本は意外に巧妙な作りになっている。
先述の『教育勅語の真実』でさえ、大部分は正確な内容であり、そこに少しだけおかしな記述が紛れ込んでいる。これを見抜くのはなかなか容易ではない。だから厄介なのだ。
たとえば、同書は、教育学者・平田諭治の研究書『教育勅語国際関係史の研究』(風間書房、1997年)を引いて、英訳された「教育勅語」がイギリスで「絶賛」されていたと主張する。
ところが、平田の本をひもとくと、じつは批判的な意見もあったと書かれているのである。
平田の本は、500ページ以上あり値段も2万円近くする。一般のひとはなかなか手が届かない。それを逆手に取って、こうしたつまみ食いが行われているわけだ。