大手映画会社の意欲作であることが多い「日本アカデミー賞」
まず、2019年の日本アカデミー賞ノミネート作品は、『新聞記者』『キングダム』『翔んで埼玉』『閉鎖病棟―それぞれの朝―』『蜜蜂と遠雷』の5本だった。共通点があるとすれば、5本中5本とも原作があるという点。そして、5作とも興行収入が億単位であるという点だ。
一方の映画専門誌(キネマ旬報・映画芸術)は、1~3位までが全く同じ作品になっている。その他、どちらにもランクインされている作品も挙げると『火口のふたり』『半世界』『宮本から君へ』『よこがお』『嵐電』の5本がある。特徴は、5本中3本がオリジナル作品・年齢制限(R18+、R15+、PG12)が設けられているという点。
これらの観点から双方のラインアップを比較すると、日本アカデミー賞ノミネート作品は全体的に総制作費が高く、大手映画会社の意欲作であることが多い。現に『キングダム』は佐藤信介監督が「日本映画としては最大規模の予算」と明言している。
また原作がある作品が多いこともその特徴だと考えられる。原作がある作品のメリットとは、一定の面白さが担保されているからこそ実写化される点と、原作ファンを引き込めるからだ。高い制作費に裏打ちされた一定水準の完成度はもちろんのこと、集客や興行収入を見越した商業至上主義的な作品が多くなる傾向があるかもしれない。
だからこそ今年、テレビCMや番宣がなく、制作費も上映館数も圧倒的に少なかった『新聞記者』の作品賞受賞に希望を持った人もいただろう。
作家性や芸術性に重きをおく、専門誌のベストテン
逆に、オリジナル作品や年齢制限が設けられた作品が多いように感じるのが、各専門誌のベストテン。テレビ東京で実写化ドラマ化されていた『宮本から君へ』を除き、日本アカデミー賞ノミネート作品ほどテレビCMや番宣を見なかった作品が並ぶ。
また、年齢制限がかかっている作品は当然ながら観られる層も限定的になってくる。その点は興行収入といった大衆性に大きく差がつけられる要因になってくるかもしれない。そういった大衆性や利益が伴わなくても、作家性であったり、芸術性であったり、物語の質を評価される傾向が専門誌のベストテンにはあると言えるだろう。