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『新聞記者』が選ばれ『宮本から君へ』は選外……なぜ日本アカデミー賞と専門誌の“良い映画の基準”は違うのか

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賞レース総なめ『宮本から君へ』はなぜ選ばれなかったのか

 こういった日本アカデミー賞と専門誌の映画作品への評価の違いは、むしろ他の映画賞との差別化や棲み分けにもなるので大いに結構なのだが、個人的には昨年一番胸揺さぶられた真利子哲也監督、池松壮亮さん主演の『宮本から君へ』が日本アカデミー賞にノミネートされなかったことが気になった。

 選考基準を満たしているのはもちろん、キネマ旬報や映画芸術のみならず、日刊スポーツ映画大賞、ブルーリボン賞、TAMA映画祭、ヨコハマ映画祭、高崎映画祭、おおさかシネマフェスティバル2020、Filmarks2019年邦画満足度ランキング第1位など、作品賞・監督賞・主演男優賞・主演女優賞を多数受賞している作品であるにも関わらず、日本アカデミー賞ではどの部門にもノミネートされなかったのだ。

映画『宮本から君へ』ポスターより

 要因として考えられるとすれば、キャストの一人であるピエール瀧さんの逮捕や、それを受けての助成金交付内定取り消し問題など、昨今話題になっている「映画作品の自粛ムード」など業界内における忖度が窺える。超不器用人間ながら誰よりも真っ直ぐで無様で諦めないサラリーマン・宮本浩(池松壮亮)の生き様を描く今作は、原作漫画が持つ熱量を余すことなく実写として映し出し、ドラマ版とはまた異なるアツさを、いや、エグさを全身全霊で描いた。

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 解釈の仕方次第なところもあるが、「日本映画人による日本映画人のための日本映画の祭典を」という理念は一体どこへ消え失せてしまったのだろう。

商業的に成功していても「文化」として定着していない

 2019年度の日本の映画における興行収入は2611億円と過去最高を更新している。だがその一方で、日本人の「映画」という文化に対する価値観は年々低くなっているように感じてならない。先日、本家の米国アカデミー賞の作品賞に韓国映画の『パラサイト 半地下の家族』が選ばれ話題になった。その韓国では「映画」の文化が根強く浸透している。

韓国映画『パラサイト 半地下の家族』は、米アカデミー賞で4冠に輝いた ©AFLO

 総人口が日本の4割ほどである韓国では、2019年の観客動員数が2億2668万人なのに対し、日本の動員数は1億9400万人。さらに、基本料金に関して言えば、日本が一般1900円なのに対し、韓国は1000円。国民一人あたりの年間映画鑑賞本数が日本の約3倍と言われているのも納得である。

 また、大きく異なる点として、文化産業振興基本法など、長年に渡り国家戦略としてコンテンツ産業の強化に取り組んできた韓国政府は、年間2600億円の文化予算をつぎ込んでおり(日本の文化予算は1000億円)、公的支援を受けて映画作りのできる環境が整った韓国映画界と日本映画界に差が生じるのは至極当然だ。