3月29日夜、コメディアンの志村けんさん(享年70)が新型コロナウイルス(COVID-19)肺炎で亡くなりました。3月20日に発熱と呼吸困難のため都内の病院に搬送された後、24日から人工心肺装置「ECMO(エクモ=体外式膜型人工肺)」が使える病院に転院して闘病中と伝えられていました。しかし、ついに回復は叶いませんでした。

1998年当時の志村けん ©文藝春秋

 日本中に笑いを届けてきた国民的スターが新型コロナウイルスで亡くなり、ショックを受けている人や、不安がさらに強くなった人も多いことでしょう。そんなときに、死者に鞭打つようなことを書くのはとても忍びないのですが、新型コロナウイルスに感染した志村さんの回復が厳しいことは、当初から覚悟しなければならない状態だったと思います。

 志村さんは、多い時で1日3箱も吸うヘビースモーカーだったそうです。2016年8月には肺炎を発症。10日余りの入院を余儀なくされ、公演中の舞台を中止したことがありました。それ以来、タバコはやめていたそうですが、それまでの喫煙による肺のダメージは、相当蓄積されていたはずです。

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 タバコが体に与える悪影響を示す数字に「喫煙指数(ブリンクマン指数)」があります。「1日の喫煙本数」×「喫煙年数」で算出され、この数値が700を超えると肺がんや咽頭がんだけでなく、「COPD(慢性閉塞性肺疾患)」のリスクが高まるとされています(日本医師会「喫煙指数」)。

喫煙指数=1日の喫煙本数×喫煙年数(写真はイメージ) ©iStock

 COPDはタバコなど有害な物質を長期間吸い続けることによって起こる呼吸器の病気です。せきやたんで気管支が狭くなる「慢性気管支炎」と、肺の組織が壊れて息切れや呼吸困難を起す「慢性肺気腫」が重なって、進行すると少し体を動かすだけでも息が苦しくなり、酸素吸入が欠かせなくなります。

 20歳から65歳までの45年間、毎日40本のタバコを吸っていたとすると、志村さんの喫煙指数は1800にもなります(その半分でも900です)。ですから、COPDになっていたとしても不思議ではありません。実は、COPDの人はウイルスや細菌による肺炎を起こしやすく、しかも発熱や呼吸困難の症状が急激に悪化しやすいのです(慶應義塾大学病院医療・健康情報サイトKOMPAS「慢性閉塞性肺疾患(COPD)」)。

 それに、志村さんはすでに重い肺炎を起こしたことがありました。一度肺炎を起こすと、再び肺炎を起こしやすくなると言われていますが、とくに高齢者はそのリスクが高いことが知られています。なぜなら、高齢者は肺炎にかかると長期の入院で体の機能が衰えて、呼吸する力や飲み込む力が低下する場合があるからです。そのため、肺炎を繰り返す「悪循環」に陥りやすいとされているのです。