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「なんでもすぐ調べたくなる」“普通の会社員”だった川越宗一さんが41歳で直木賞作家になるまで

『熱源』誕生の舞台裏に有働由美子さんが迫る!

note

有働 受賞作の『熱源』は、樺太(サハリン)生まれのアイヌ、ヤヨマネクフと若くしてサハリンに流刑となったポーランド人のブロニスワフ・ピウスツキという二人の実在した人物を主人公に、日本とロシアの同化政策に苦しみ、戦争に運命を翻弄されながらも逞しく生きる姿を描いた作品です。北海道、樺太のほか舞台はヨーロッパや東京などにも移り、直木賞選考委員の浅田次郎さんは「近年まれにみる大きなスケールで小説世界を築きあげた」と評されました。

 読み始めて、登場人物の名前や地名が頭に入るまでは「ああ、読み終わるまで何日かかるんだろう」と思いましたけど、途中からあっという間に引き込まれました。普段小説を2度読むことはないんですけど、『熱源』は読了後また頭から読み返しています。

川越 ありがとうございます。

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「グータラな夫じゃないですか(笑)」

有働 この壮大なストーリーを着想したのは、奥さまと北海道旅行したのがきっかけだったとか。

川越 はい、5年ほど前です。実は新婚旅行も北海道だったんですけど、とても楽しかったので「また行きたいね」とずっと話してたんです。そしたらお互いに4泊ぐらいできる時間ができて。とくに行き先は決めずに、妻の運転であちこち見てまわりました。

有働 川越さんは一切運転せず?

有働由美子さん ©文藝春秋

川越 はい、免許を持ってないので。助手席でずっとビールを飲みながら「次はあっち行こう」「こっち行こう」と言ってるだけでした。

有働 グータラな夫じゃないですか(笑)。

『熱源』(文藝春秋)

川越 まったくその通りです。それで、最終日に新千歳空港へ戻る途中、白老(しらおい)町にあるアイヌ民族博物館(現在は国立化にともなう工事のため閉館中)に寄ったんです。フライトまでまだ時間があるから「ちょっと行ってみようぜ」ぐらいのノリで。

 博物館ではアイヌの村が再現してありました。楽しいなぁとウロウロしていたら、胸像がぽつんと展示してあったんです。ブロニスワフ・ピウスツキというポーランド人で「アイヌと極東先住民研究の開拓者。白老に滞在して研究に勤しんだ」といった内容の解説文が数行ありました。でも、ポーランドって、北海道からえらい遠いですよね。「なんで来たんやろうな」と興味をもって調べてみたんです。