日本は死者が少ないからコロナ対策は成功していると考える段階はすでに終わったと考えたほうが良いであろう。感染者や死者数が減少トレンドに転じず、断片的ながら市中感染の拡がりを示唆するデータが明らかになってきたことを踏まえれば、残念ながら、これから患者の急激な増加に伴い、死者も増えていくと考えざるをえない。
私の住む英国も、当初は「大丈夫」と思っているうちに、対策が後手に回り、多くの犠牲者を出すという失敗を犯した。この失敗を踏まえ、戦略を短期間で大幅に変え、3週間のロックダウンを実施、さらに現在3週間の延長を決め、ようやくピークアウトの兆しが見られ、出口戦略の議論が高まっている。英国の過ちを教訓として、日本は多くの犠牲者を出す悲劇を回避してほしい。そのためには、時々刻々変化する状況を踏まえて迅速かつ大胆に臨機応変に対策を講じていかなければならない。
慶應病院「無症状の入院患者の約6%が感染」の衝撃
筆者は以前から、検査を絞るクラスター対策で捕捉できない無症状や軽症の感染者による市中感染、そして、その結果として生じる院内感染に警鐘を鳴らしていた。ここ最近の度重なる院内感染による病院の閉鎖や機能停止、救急車たらい回しのニュースを辛い思いをしながら見ていたが、4月21日に発表された慶應大学病院からの報告は衝撃的だった。
「4月13日から4月19日の期間に行われた術前および入院前PCR検査において、新型コロナウイルス感染症以外の治療を目的とした無症状の患者さんのうち5.97%の陽性者(4人/67人中)が確認されました。これは院外・市中で感染したものと考えられ、地域での感染の状況を反映している可能性があり、感染防止にむけてさらなる策を講じていく必要があると考えております。」
無症状の入院患者の約6%がコロナに感染していたというのだ。もちろんサンプル数が少なく、入院患者のデータであるから、この値をそのまま一般人口に当てはめることは適切ではない。このデータを市中感染の状況の推計のうえで、どう解釈するかは慎重な姿勢が必要だ。例えば、都市部の病院通院者は一般人口よりも感染の確率が高いと考えられるため、6%は過大評価であろう。ただ、通常使われる分析手法を用いて、いわゆる信頼区間や検査の精度に鑑み、過大評価しないように低めの値を見積もり約1~2%が無症状感染者との前提をおくと、既に東京では数十万人の無症状感染者がいるとの推計結果を導き出すことも可能となる。
より正確な感染率を調べるためには、大規模なPCR検査あるいは抗体検査による調査が必要だが、多くの医療機関は全くの無防備で、いつ何時、院内感染するか分からないのが現状だ。医療従事者は感染のリスクに常にさらされ続けている。これは、大病院だけではなくかかりつけ医、介護職などもそうだ。