最も権威ある医学誌が「無症状感染はアキレス腱」と指摘
これはクラスター対策をはじめ、これまでのコロナ対策の常識を覆すものだ。同誌論説では「無症状感染は現行の新型コロナウイルス対策のアキレス腱」というタイトルで、今までのような症状のある感染者への対応だけでは不十分なこと、そして、無症状感染者への検査拡大の必要性を訴えている。つまり、無症状感染者を検査により見つけ出し、他の人にうつす前に隔離していくことが必要となる。
「検査を絞り重症例を優先すべき」という臨床医学的視点は全く間違いではない。しかし、検査を絞っていては、無症状感染者を見つけ出すことができない。このため公衆衛生学的観点からは、「無症状や軽症例を含めた多くの人に検査を実施すべき」となる。この二律背反した考えによって多くの人が混乱している。それは無理もない、医学界においても全く正反対のメッセージが出ているからだ。しかし、これ以上の被害を防ぎ、感染を拡大させないためにも、クラスター対策から検査の拡大及び無症状感染者等の隔離にも力点を置くアプローチへと移行する段階にきている。
もちろん、このアプローチの前提となるのは、病院への検査希望者の殺到を防ぐための病院外での処理能力が確保された検査体制の整備、そして陽性と判定された方向けの十分な収容施設の確保だ。前者については、東京都等で関係者の尽力によりPCRセンターなどの先駆的な取り組みが始められている。また、大学や研究施設、民間機関などのPCR検査の資源をフル活用していくことも求められる。政府は、人的資源や検査のための試薬の確保へのサポートを強化すべきだ。
別の学会からは「無症候患者にPCR検査を」の共同声明も
慶應大学病院の事例は氷山の一角だ。今、日本中の医療・介護施設の従事者は大きな感染リスクにさらされている。最近、日本脳神経外科学会や京都大学・京都府立医科大学が共同で出した声明は、感染症2学会とは全く逆の方向性である。「院内感染を防ぐ水際対策として、無症候の患者に対する新型コロナウイルスのPCR検査を保険適用(ないし公費で施行可能)にしていただきたい」というものだ。
つまり医療現場を守るためにも公衆衛生学的アプローチで、徹底した検査及び隔離を進めるということだ。多くの基幹病院では、院内感染を防ぐために独自に持ち出しでPCR検査をしているところが多い。政府は院内感染による医療崩壊の進行を止めるためにも、早急に、入院患者と医療従事者の検査への保険適用を認めるべきだ。