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 そのロジックはこうだ。仮に1人の感染者が別の2.5人に移すとしよう(これを基本再生産数Rという)。このRが感染症の動向を見る上で最も重要な値だ。全員検査で感染者を見つけだし、あらかじめ用意した収容施設に隔離する。英国では、感染の約3分の1が自宅での家族間の感染なので、家族間感染の抑制効果だけで、Rは約1.7に下がる。残る自宅外感染のリスクについては、「症状のある感染者」と「症状が出る前の感染者か無症状の感染者」から感染の可能性がある。

 前者は自ら検査を希望する方も多いので、全員検査は後者をできるだけ見つけようとするものだ。後者を見つけて隔離を進めれば、自然に前者からの感染も防ぐことができる。これらの自宅内+自宅外トータルの効果で、Rを1未満にするという考え方だ。これは、クラスター対策とは全く逆の発想である。

 もちろん、検査には目的がなければいけない。そして、検査をすることで対象者や社会全体にとって何らかのメリットがなければ、検査はやるべきではない。無症状者への検査は、感染がみつかった無症状感染者の隔離を促し、他者への感染を予防することができる。また、無症状でも自らの感染を認識することで、仮に症状が急速に悪化しても迅速な対応も可能だ。

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 完璧な検査というものは存在しないため、偽陰性(本当は感染しているのに陰性の結果が出る)の問題はある。陰性の方にも、偽陰性の可能性を十分に説明しておき、引き続き社会的距離は保つように指導する。さらに、提案のような定期的に検査を繰り返す仕組みができれば、偽陰性の問題も軽減できる。こうして、全員検査によって、ロックダウンなしにコロナをコントロールできる可能性がある。

英米でも実施されている「在宅検査キット」は魅力的

 繰り返しになるが、実現するためのハードルは、山ほどある。当然ながら、検査を大幅に、それこそ、1日数十万から100万単位で行う必要が出てくる。そのためにも、検査におけるイノベーションが不可欠だ。例えば、すでに英国や米国でも実施されている在宅検査キットなどは魅力的だ。

検体を車に乗ったまま採取する「ドライブスルー検査」の実地訓練 4月23日長崎市 ©︎共同通信社

 日本でもPCR検査キットの販売が開始されたが、臨床医や医師会からは十分な信頼性がないと指摘されている。自宅での検体の採取と医師による採取で検査結果に差はないと米国で報告されているが、日本でもその信頼性を適切に追試する必要がある。さらに、体外診断薬として十分な精度があり、その結果と症状をオンラインで医師がチェックすることで診断がなされる状態を提供すべきではないだろうか。陽性の場合は隔離とセットで、また陰性の場合は繰り返しの検査と偽陰性の可能性を周知していく必要がある。

簡便な唾液での検査も米国では承認

 また、鼻腔や咽頭を綿棒でこするやり方ではなく、簡便な唾液での検査も米国では承認されている。自宅検査キットは、今後のコロナ対策においても極めて重要であり、関係者が協力して前向きに対応することを望みたい。

 このほかにも、陽性者を隔離するための大量の収容施設の整備は当然必須であり、また、保健所職員に過度の負担をかけずに、感染拡大の観点から、個々の感染者の行動パターンを把握するため、個人情報保護に配慮しながら、アプリを用いた感染者のビッグデータ分析を進めることも必要だ。