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5人の女性から毎月100万円もらう役も……35歳になったRADWIMPS野田洋次郎はなぜ芝居に挑戦するのか

朝ドラ『エール』にも出演中

2020/07/05
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 このとき野田は、才能がありながら絵を描くのをやめ、ビルの窓拭きのアルバイトで生計を立てる宏という青年を演じた。ある日、余命3ヵ月の宣告を受けた宏は、忍び寄る病魔に苦しみながらも、やがて自宅アパートのトイレの天井にピエタ(キリストの遺体を膝の上に抱きかかえた聖母マリア像)を描き始める――というのがそのストーリーだ。原案となったのは、1989年に胃がんで亡くなったマンガ家・手塚治虫が、病床での日記に書き残していたアイデアで、ここから松永大司監督がイメージを膨らませて映画化した。

2015年に公開された映画『トイレのピエタ』

 野田が『トイレのピエタ』への出演依頼を受けたのは2013年で、まず脚本を読ませてもらい、すばらしいとは思ったものの、当初は自分で演じようという気持ちにまではならなかった。彼としてみれば、《役者をやるっていうのは、ちょっと想像の範疇を超えてることだった》という(※2)。しかし、松永監督と会い、その後もメールでやりとりするなかで、先方から「僕が責任を持ちます」「洋次郎君なら絶対できると思うんです、というか洋次郎君じゃなきゃだめなんです」などと説得され、しだいに心を動かされていく。最終的に《じゃあ絶対に僕を諦めないでやってくれるんだったらやります》と言って承諾し、松永とはそれからクランクインするまで1年間、月1~2回は必ず会って、何気ない話をしつつ、野田は自分のなかで宏を育て、ストーリーも育てていったとか(※3)。

「ほんっとに死ぬのが怖くて」「死にたくなくて」

 撮影に入るまでに半年間、窓拭き掃除の練習だけはしたものの、松永からは、とくに芝居のレッスンをする必要はないと言われた。だが、いざ撮影に入ると、役にのめり込んでいく。《どんどん自分が宏になっていって。家帰っても何やってても、ずっと『(トイレの)ピエタ』の世界から1ミリも離れられなくて。終盤は、ほんっとに死ぬのが怖くて。死にたくなくて。[引用者注:作中に登場する杉咲花演じる女子高生の]真衣がいる世界から消えたくなくて。あんな体験ほんとにはじめてでしたね》とのちに振り返るほどだった(※2)。

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 この映画では主題歌も手がけた。撮影が終わって4日後に打ち上げがあるので、そこで歌ってほしいと頼まれ、その日数で集中して書き上げたという。題して「ピクニック」。このときの心境を野田は《今ここにあるこの愛しさを吐き出して聴いてみたいと思ったんですね。この感情は、たぶん狙っても一生出会えない感情だと思ったし。たぶん改めて主題歌を作ったら、もっと洗練された曲になってたと思います。あの状況だから極めてシンプルで、削ぎ落とされたああいう曲ができたし》と明かしている(※3)。

©文藝春秋

「愛にできることはまだあるかい」誕生秘話

 じつは、これと似たようなことを、野田は昨年の『天気の子』公開時にも語っている。新海誠監督が同作を準備していたころ、まだ音楽をオファーするとかいうのではなく、ひとまず脚本を書いたので読んでくださいと頼まれたという。読み終えてから、「なんか曲、浮かんだりしますかね……?」と漠然と訊かれたが、野田には確実に感じるものがあった。