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“都道府県単位の自粛”は本当に必要? 総合診療医が考える「感染予防と経済のバランス」

コロナ感染再拡大――徳田安春医師インタビュー #3

2020/07/29

軽症者や無症状者の“自宅療養”は危ない

──しかし、冬が来て、ふたたび感染爆発が起こったら、また自粛要請せざるを得なくなります。

徳田 それを防ぐためにも、陽性率の高いエリアに集中して大量の検査を行い、陽性者を保護隔離してほしいのです。そのためにも、東京ビッグサイトでも選手村でもいいので、軽症者や無症状者向けの宿泊施設を増やしてほしい。今、東京都は入院ベッド数を3300床確保すると言ってますよね。でも、それより軽症や無症状の若者は、宿泊施設でモニタリングすればよいのです。

 軽症者や無症状者は自宅での自己隔離にすればいいという意見もあるでしょう。しかし、家族がいる場合、自宅での自己隔離は家庭内感染のリスクとなります。また、買い物や食事が必要なので、外に出て感染を広げるリスクがある。自宅療養のガイドラインも、順守は難しいのが現実なのです。

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 ですから、軽症者や無症状者はホテルに泊まってもらって、食事は3食ドアの前に置いて取ってもらうようにする。そして、部屋でも軽い運動をしてもらうために、インストラクタービデオで指導する。血圧、心拍数、呼吸数、血中酸素飽和度などバイタルサインと症状を1日2回健康日記としてのアプリに入力してもらい、医療モニタリングで病状の急変に対応できるようにする。むしろ、そうした対応のできる宿泊施設をたくさん用意しておいてほしいのです。

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2〜3月頃の理論をアップデートする

──こうした戦略を描いて、実行しようというリーダーは日本にはいないのでしょうか。

徳田 新型コロナウイルスの上陸が明らかになった2~3月頃、「PCR検査を増やすと医療崩壊する」という理論が医療者にも蔓延し、頭に刷り込まれた人が多かった。あれだけ言われると、マインドセット(強い思い込み)となります。さらに、フェイスブックやツイッターでも、同じような意見を頻繁に見るので、その考えを強化してしまう。これを「確証バイアス」と言います。

 でも、早く考えを修正しなくてはいけない。パンデミックで医師や専門家がすべきことは、世界の情報とエビデンスを集めること。最新の文献や世界のサイエンスコミュニティーで何が議論されているかをアップデートすることです。

 医学の父と言われる米国の医師ウイリアム・オスラー(1849~1919)は、「医師として最も重要なことは、『謙遜の徳』を身に着けることだ」と言っています。なぜなら、病気のことの多くは、まだすべてわかっているわけではないからです。もし考えが間違っていたとしたら、改めていかなくてはいけない。