本場の味と一般受けのバランスは難しい
実は、私自身も「エリックサウス」という南インド料理専門店を運営しており、冷凍南インドカレーを通販でも販売しています。 しかし、私自身はこういった問題にはほとんど直面していません。ひとつには「レトルト」ではなく「冷凍」なので技術的なハードルがはるかに低いという点があります。お店で作るそのままのカレーを作ってそれを冷凍するだけであり、レトルトのように加工前と後で大きく味が変わるという難しさはないということです。
もうひとつはある程度尖った味で万人受けしなくてもそれはそれで構わないという根本的な点があります。実店舗のファンを中心にそういう味を好む「愛好家」だけに楽しんでもらえればいい、というニッチなビジネスだからです。
しかし規模の大きいナショナルブランドである無印良品ではそういうわけにもいきません。本場の味と一般受け、そのバランスを常にシビアに探り続けていかなければならない。それが無印良品とにしき食品という類稀な強力タッグチームに課せられた使命なのです。
そういう目線でここ数年における無印レトルトカレーのラインナップの変遷を眺めていると、少し興味深いことに気付きます。タイ風グリーンカレーやバターチキンカレー、そしてスパイシーチキンカレーやキーマカレーといったいかにも日本人受けの良さそうなラインナップは常に不動である一方で、南インドカレーを中心とするマニアックな商品は結構入れ替わりが激しいのです。これは推測に過ぎませんが、充分な販売実績が得られなかったが故の商品変更という面があるのかもしれません。
「いつまでも あると思うな 無印のマニアックカレー」
さらに言えば、ラインナップ全体に占めるそういったマニアック商品の割合自体は徐々にではありますが減ってもいます。カレーマニアにとっては歯痒いことこの上ない事態なのですが、これは、私もここ10年以上続いていると実感している日本人の味に対する保守化傾向を反映しているのかもしれません。
なので、一消費者の視点で言えば「いつまでもあると思うな無印のマニアックカレー」です。油断するとすぐ廃番となって次の商品に入れ替わってしまうから、発見したらためらいなくすぐ買っといた方がいいってことです。またそうやって積極的に買い支える事で、再びマニアック系の品揃えは増えていくかもしれないという期待もあります。
つまり明日の無印レトルトカレーのラインナップを作るのは我々消費者なのです。それが「本場の味を届けたい」という情熱に支えられたアグレッシブなものであり続けるか、それとも見慣れた定番のラインナップで固められるかは、無印のレトルトカレー開発に関わる人々のパッションだけでは如何ともし難い、それが商業経済です。
というわけで、後編では「無印レトルトカレーのおいしさの本質はどこにあるのか」という考察、そして現在の無印ラインナップからお気に入りのカレーをいくつか実際に食べてレビューをしたためてみたいと思います。