「イグアナの名前がイグちゃんでしょ、それからプードルがトマトとレタス。昔は猫も飼ってたらしいですよ。さすがに名前は聞かなかったんですけど。あと、パンに目がなくて、『よくダンナが食べに連れていってくれる』て話してたので、『愛されとんな』と私が言うと、『全然』ってシラーッとした顔で返してくるんです」
谷岡さんは、美代子が自殺した兵庫県警本部(神戸市)の留置施設で、12年9月前半から後半まで彼女と同房にいた30代の女性である。同県警本部3階にある留置施設には、第一から第三まで3つの房が横に並んでいて、谷岡さんと美代子は、監視台の正面にある第二の房にいた。基本的にひとつの房には3人が雑居していて、ときには4人になることもあったという。
「看守のことをみんな“担当さん”と呼ぶんですけど、美代子は担当さんから“65番”という番号で呼ばれてました。ほんで、私は彼女のことを“オカン”と呼んでいました」
美代子は谷岡さんに、自分の名前は“東三樹”だと嘘をついていた。
「出所したら連絡して欲しいと言って、その名前と携帯電話の番号を私のノートに書いていました。だから私はずっとそれがオカンの本名やと思ってたんです。事件が起きてしばらくしてから、テレビで本物の顔写真が出たのを見て、あ、オカンやと思い、初めて角田美代子という名前だと知りました」
私は谷岡さんに美代子の第一印象を尋ねた。
「ふてぶてしい、キツそうな印象のある、図太いオバチャンいう感じです。ほんで、私が『オカン、いつからおるん?』て聞いたら、『5月かな、7月やったかな』て小さな嘘をつくんです。あと、『自分は傷害で入っていて、弁護士は5人いる』と自慢してましたが、尼崎という地名はひとことも出しませんでした」
「消灯後に布団から起き上がって、ずっと目を逸らさず睨みつけてました」
テレビがないため、新聞と差し入れてもらった本を、毎日熱心に読んでいたそうだ。
「新聞で新刊をメモしては、すぐに本を買うんです。野村沙知代の本を読んでいたのを記憶しています。本がすぐに規定の量になり、宅下げ(編集部注:勾留されている人物が外の人間に物品を渡すこと)してもらっていました。それと食べ物の好き嫌いが多く、肉が嫌いでシーフードが好きやと言ってました。甘いものも好物で、アンパンがお気に入りやったし、チェルシーなんかもよう買うてましたね。服に関してはブランドは『バーバリーが好きや』と話していて、いつも黒のバーバリーのトレーナーにクリーム色のチノパンを穿いてました」