1ページ目から読む
6/6ページ目

知事のイメージ戦略に騙されてはいけない

 こうした姑息な手段が横行するのには訳がある。都庁の各局は常に、新規事業を打ち出さなければいけないというプレッシャーに晒されている。いわゆる「新規事業シンドローム」に罹っているのだ。局として翌年度の目玉が欲しい、知事サイドから無理にでも出せと求められる。こんなことが毎年のように長年にわたって続けば、知恵もアイデアも枯渇するというものである。

©iStock.com

 だからつい「なんちゃって」に頼ってしまうのだ。結果、やってもやらなくてもいいような事業が積み重なっていく。さらに悪いことに、都議会各会派や業界からの要求に応えるために仕立て上げられた、ステルス型の新規事業も散見される。中でもタチの悪いのが、ある都議会議員のごり押しで渋々企画した個人銘柄事業である。これもまた、都庁の新規事業として登録されるのだ。個人銘柄の常として、議員の関係事業者などにうまく予算(税金)が流れるよう巧妙に条件設定がなされている。

 かくして予算書には、曰くありげな新規事業が多数、名を連ねることになる。しかし、真に都民のニーズに応える新規事業は、そのうちのわずかでしかない。

ADVERTISEMENT

 また、「なんちゃって」とは趣が異なるが、知事が会見などで誇らしげに吹聴する新規事業に対しては眉に唾して構える必要がある。トップの前のめり感だけが先行して、具体的な中身が詰まっておらず、ニーズの把握が不十分だったりするのはよくあることだ。事業発表時の打ち上げ花火だけに目を奪われるのではなく、事業の進捗状況と達成度合いを追いかけないと、知事のイメージ戦略にコロッと騙されることになりかねないので要注意である。

ハダカの東京都庁

澤 章

文藝春秋

2021年6月10日 発売