「お父さん、オレの奨学金を使いこんでくれて、ありがとう。」


 6月20日の“父の日”、IGRいわて銀河鉄道の二戸(にのへ)駅と盛岡駅に貼られた広告。亡き父に向けた鮮烈なコピーに続くのは、その歪んだ金銭感覚と息子が味わった苦労と感謝。広告を出したのは、キャッシュレスマップアプリ「AI-Credit」開発者でAIクレジットの取締役を務めている足澤憲氏(33)だ。

 働かない父に代わって農作業に明け暮れ、奨学金のみならずお年玉も狙われていたという彼に、話を聞いた。(全2回の1回目/後編を読む)

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代々続く農家の出身だったが……

――二戸駅と盛岡駅に貼られた広告はインパクトがありました。足澤さんの奨学金を使い込んだお父様への恨み節のように思いきや、感謝のメッセージになっている。お父様の金銭感覚に苦しんだことが、クレジットカードやオンライン決済サービスの比較検討ができるキャッシュレスマップアプリ「AI-Credit」の開発に繋がったという。

足澤 父が生きている間、一回も「ありがとう」と言ったことがないので一度くらいは言っておこうかなと。亡くなった父を広告のネタにしちゃいましたけど、感謝することで自分的にいろいろ区切りもつけられるし、家族としても父の悪行みたいなものをリセットできるのかなと思って。

 実際、母は良い顔をしないかなと危惧していましたけど「ありがとね」と言ってくれたし、姉と妹も同じような反応でホッとしました。

 

――親による奨学金の使い込みって、結構なことですよね。でも、感謝できる心境に達するのが凄いですし、そこに至るまでには簡単に言い表せられないものや出来事がたくさんあったのだろうなとも思うんです。そこでご家族のことをお伺いしたいのですが、ご実家は岩手になるわけですか?

足澤 岩手です。広告を出した二戸駅が最寄りになります。といっても二戸市は凄く広くて、その山奥にある足沢という地区の生まれです。農業をやっていて、田畑で米とリンドウを育てていました。岩手はリンドウ栽培が盛んなんです。

 そこで、父方の祖父と祖母、父と母、姉ふたり、僕、13歳下の妹という家族構成で、僕が小さい時には曽祖父、曽祖母もいました。その曽祖父が足澤商店という雑貨屋もやっていて、昔はそこそこ余裕があったみたいです。