「お父さん、オレの奨学金を使いこんでくれて、ありがとう。」

 6月20日の“父の日”、IGRいわて銀河鉄道の二戸(にのへ)駅と盛岡駅に貼られた広告。亡き父に向けた鮮烈なコピーに続くのは、その歪んだ金銭感覚と息子が味わった苦労と感謝。広告を出したのは、キャッシュレスマップアプリ「AI-Credit」開発者でAIクレジットの取締役を務めている足澤憲氏(33)だ。

 奨学金使い込みの手口、無心され続けた大学時代、葬儀代を払えずに選ぶことになった献体、それらを経ての亡き父への想いなどを彼に聞いた。(全2回の2回目/前編を読む)

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明細に、受け取った覚えのない奨学金が

――お父様による奨学金の使い込みを知ったのは、どのタイミングで?

足澤 そもそも高校は、うちの世帯年収が低かったので授業料がほぼ免除状態だったはずなんですよ。なので、奨学金がいらない。だから、高校時代の奨学金に関しては父が勝手に申請していて使っていたようで。ちょっと記憶が曖昧なんですけど、それは母がどうにかしてくれたはずです。

 大学の奨学金に関しては、知らぬ間にふたつ借りてることになってました。卒業して大学院に進むタイミングで、返済方法はどうするかって通知がくる。そこで明細みたいなのを見たら、片方は私がちゃんと受け取っていたけど、もう片方は払われているけど金額的にも受け取っていた覚えがないんです。

 そこで、もう片方の奨学金を父が抜いていたのに気が付いて。

――失礼な言い方になりますが、お父様はどのような手口を使われたのでしょう。

足澤 受け取りの口座自体は僕の口座だったんですけど、父が管理していて普通に引き出していたんです。頭にきたとか、呆れたとかよりも、ただただ驚きました。

 大学の奨学金はふたつ合わせて415万円だったんですけど、そのうちの315万円が使い込まれていました。いまさら父に文句を言っても戻ってくるわけじゃないし、もう自分でなんとかするしかないなって。

 

過去には、嵐で家の壁が崩壊したことも

――これまた失礼な言い方になりますが、大学進学によって家を出られた時は嬉しかったのではないですか。

足澤 親父から離れられるのもありますし、あの古い家から出られるのは大きかったですね。

 土壁のボロボロの家だったんですけど、嵐の日に2階にあった僕の部屋の壁がいきなり崩れてしまって。まるでドリフのコントですよ。もう、一気に一面が外の風景だし、雨風がガンガン入ってくるわで大変だったんですよ。とりあえず木の板をトントンやりましたけど、隙間だらけなのでしばらく1階の居間で寝起きしていました。

 ただ、姉たちは嫁いでいたからいいけど、母と妹が残ることになるので。ふたりを置いて出ていっていいのかなと心配はしました。でも、大学を出たら、起業して成功して、たくさん稼いで家を潤そうみたいな気持ちも強かったので。