文氏の故郷を訪ねる信者向けの“聖地巡礼ツアー”が盛んに
トップ会談を経て統一教会は、北朝鮮経済に深く浸透していく。平壌市にある国営の普通江ホテルや大型レストラン安山館の経営権を手中に収め、後に礼拝堂を完備した世界平和センターも市内に建設する。
「普通江ホテルは、韓国出身の女性実業家の『マダムパク』こと朴敬允氏が会長を務める『金剛山国際グループ』が経営していましたが、総支配人や従業員は統一教会の信者でした。91年に名古屋と平壌を結ぶ空路直行便を開拓し、北朝鮮政府に代わってビザを発給していたのも同グループです」(前出・教団関係者)
こうして90年代以降、文氏の故郷を訪ねる信者向けの“聖地巡礼ツアー”も盛んに行われるようになった。北朝鮮は新たな集金手段となったのだ。
「ツアーを担当するのは統一教会系の旅行会社で、旅費は当時30万円弱。“聖地”の近くに世界平和公園が造成され、文氏の生家には『聖金函』と書かれた献金用の壺が用意されていました。多い人だと、献金額は100万円程度。“聖地”が誕生した直後の90年代前半頃は、日本から年間約1000人の信者が訪れたとされています」(同前)
統一教会は「現在、平安北道定州巡礼ツアーは開催されておりません。世界的にコロナ感染症が蔓延する中、再開の目途も立っておりません。参加規模はその時々で異なり、開催自体不定期でしたので、頻度というかたちでお答えすることはできません」と回答した。
統一教会は宗教と産業の宗産複合体
一方、北朝鮮の軍事方面に統一教会の影がチラついたことも。米紙「ニューヨーク・タイムズ」が「ロシアから北朝鮮に老朽化した潜水艦が売却される」と報じたのは、94年1月のことだ。この取引を仲介したのは、91年に設立された日本の小さな商社T。日本に帰化した韓国出身の社長以下、4人の役員全員が合同結婚式に参加している統一教会の信者だったのだ。
在日韓国人3世で、ジャーナリストの李策氏は話す。
「T社は仲介の目的を『スクラップにして、鉄くずを中国に転売する』と主張しましたが、この時、国内に持ち込まれたロシア製潜水艦の技術が、後の北朝鮮によるSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)の開発に繋がったのではないかとも言われています」
その年7月8日、金氏が82歳で死去すると、北朝鮮政府は文氏に葬儀出席の招待状を送る。文氏は北京の北朝鮮大使館に弔花を届け、13日には側近で韓国『世界日報』社長の朴普煕氏が訪朝し、告別式と追悼式に参列。朴氏は、金主席の死去後に初めて訪朝した韓国人だった。
金正日体制に移行後も、統一教会との蜜月関係は続いた。ジャーナリストの有田芳生氏が指摘する。