検索エンジンもSNSもニュースサイトも、いまや陰謀論的な“alternative facts”(オルタナ・ファクト)や児童ポルノ、情報商材や仮想通貨、妊活詐欺のような問題のある情報の中身だけでなく、それを捌き最適化するための仕組みの透明性や公平性が強く求められるようになってきていると感じます。これらのサービスのサーバーが海外にあって、日本の法規の域外適用が難しいところがあるにせよ、少なくとも明らかにする努力を進めていかなければならないのではないでしょうか。
誰もいない虚空の空間に向かって毎日叫び続ける人はいない
誹謗中傷も含めた違法な情報を流通させない仕掛けは、そうむつかしいものではなく、当事者同士で被害救済が直接可能になる仕組みを構築すれば事足ります。一番簡単な方法は、改正されたプロバイダ責任制限法のような国内法規がより使いやすいよう、SNSや掲示板コメントなどで書き込まれたすべてのコンテンツに対して、発信者のIPアドレスを表示させることです。自分から積極的に名前を明らかにして顕名でSNSに参加する必要はありませんが、名誉毀損された場合などに備えて、個人の特定に必要な情報が常に参照できるようにしておくことで、よほど肝が据わった人物による悪質な書き込み以外は制限できるでしょう。
また、ネットに日常的に書き込む人は、必ずどこかの興味や関心の対象となるクラスターに属し、日々その情報にアクセスしている人です。そういう問題のある人の炙り出しにはソーシャルグラフを使った日常的な追跡を必要なときにできるようにしておくことで、問題のある書き込みをする人物を絞り込んでおくことができます。いまはブラックリスト方式でIDやアカウントの制限をかけているサービスが多く、他ならぬTwitterがそのやり方でシャドウBANをIDごとにやり、表現の自由との兼ね合いで失敗に終わっていることを考えるべきなのではないかと思います。
悪意があればアカウントなど匿名でいくらでも量産できるけれど、ある実在のソサエティやクラスタにいる人たちとの間でフォロー・フォロワー関係になるには相当な手間や時間がかかります。いまある人たちが作るソーシャルグラフでどのような関わりを持つアカウントなのかをきちんとサービス側(今回の場合はTwitter社)が行っていれば、有効な対策を打つ手掛かりは実は彼らの手の中にあるのです。
そもそも、SNSも掲示板も、ネットで何かを発信するには、何かを伝え、誰かに知ってもらいたいという動機と、その行動を受け止めるネット内のソサエティ、クラスターによる受け皿が必要です。誰もいない虚空の空間に向かって毎日叫び続ける人はあまりいません。コミュニケーションとは、必ず受け取る人がおり、リアクションがあるから続けられるのだという原理原則に立ち返ることが、ネットでのフェイクニュースや誹謗中傷などの問題対処の基礎になるのではないでしょうか。