「川口浩探検隊」を読者は覚えているだろうか。俳優・川口浩が隊長となってジャングルや洞穴に謎の生物や未開の部族を探しに行く「水曜スペシャル」の番組と言えば「あ、あの!」と膝を打つ方も多いだろう。そして続けてこう言うのではないか。「懐しい、アレね、ヤラセでしょ」
プチ鹿島著『ヤラセと情熱 水曜スペシャル「川口浩探検隊」の真実』は、70~80年代に大ヒットした伝説のフェイク・ドキュメント「川口浩探検隊」について、当時の関係者たちに証言を求め、集めた一冊。面白い。
「うん。人骨は山のように出してたね。いつも入ってるレギュラーの小道具だから」「いや、頭がい骨を使ったのはいいんですけど、それを現場に忘れてきちゃったの。それを現地の警察が見つけて、殺人事件じゃねぇかみたいな話になって」
映像にフェイクが混ざっていることをほぼ全ての関係者が認めながら、その一つ一つから、単にヤラセなどという言葉では済まない、当時のテレビの現場が狂気に満ちていたとわかるのだ。
「一生の間にあのときだけじゃないですか、トラを担いだのは」「日射病で倒れた奴がいたんです。もう金魚みたいになっちゃって口をパクパクしてね。で、それを撮影してんだけど、あとで『嘘っぽいからそのシーンはやめよう』みたいな」
ロケのエピソードがいちいち凄まじい。探検隊の冒険より撮影隊の苦労を映した方がよっぽど視聴率をかせげたのではないのかなぁと素朴に思う。「川口浩探検隊」は嘉門タツオのパロディーソングがヒットしたことでも知られている。探検隊よりカメラが先回りして構えている、といったような茶化した歌だが、実は発売前に嘉門は川口浩に承諾を受けに行ったのだそうだ。その時「川口浩はピラニアにかまれる。かまれた素手は誰の手なんだ」という歌詞を見せたところ川口浩が即答した。「僕の手なんですよ」本当にピラニアの歯で手を切られていたのだ。
フェイクかリアルかどちらに優劣があるとかではなく、フェイクがリアルを越えていく時の、あるいはフェイクがリアルと混ざりあっていく瞬間の、妖しさ、いかがわしさ、不可思議なグレーゾーンにこそ人は魅了されるのであると本書は教える。さらに、インタビューは「恐怖! 双頭の巨大怪蛇ゴーグ! 南部タイ秘境に蛇島カウングの魔神は実在した!!」「謎の原始猿人バーゴンは実在した! パラワン島奥地絶壁洞穴に黒い野人を追え!」といった放送“神回”の“創作秘話”を暴き、挙句、話は広がり「ロス疑惑」や「旧石器発掘捏造事件」「『アフタヌーンショー』ヤラセ事件」といった案件にも触れていく。どのように絡んで来るかは読んでからのお楽しみとして、驚愕、爆笑も必至の一冊である。それにしても「美少女ミイラ」は、ふ~ん、そうやって作ったのかぁ……。
ぷちかしま/1970年、長野県生まれ。大阪芸術大学卒業。時事芸人。新聞14紙を購読しての読み比べが趣味。「ニュース時事能力検定」1級。著書に『プロレス社会学のススメ』(共著)、『芸人式新聞の読み方』『教養としてのプロレス』などがある。
おおつきけんぢ/1966年、東京都生まれ。ロックミュージシャン。82年、筋肉少女帯を結成。著書に『サブカルで食う』など。