多数のキャラクターを登場させた群像劇
具体的にプロットが固まっていく過程で、開発に見舞われるタヌキたちの住み処には多摩丘陵が選ばれた。高畑は「『平成狸合戦ぽんぽこ』も、狸が化けたりして一見ファンタジー風に見えるかもしれないけれど、じつは、狸の変化という一点を除けば、すべて現実に多摩丘陵で起こったことばかりを描いています」(「あとがきにかえて」、『映画を作りながら考えたことⅡ』)と、多摩丘陵という現実の場所を選んだことが「空想的ドキュメンタリー」(同前)としての本作に大きな意味があると語っている。高畑自身、『アルプスの少女ハイジ』制作中、多摩市にある制作スタジオに通いながら、多摩丘陵がニュータウンとして開発されていく過程を目の当たりにし、驚いた経験があったという。
物語は最終的に次のように固まった。
ぽんぽこ31年、タヌキたちは自分たちが暮らしてきた多摩丘陵が、人間による開発の危機にさらされていることを知った。一致団結し断固開発阻止を決めたタヌキたちは、先祖伝来の「化け学」を復興させ、四国や佐渡に住む伝説の長老たちにも援軍を頼むことを決めた。タヌキたちは、ついに三長老の力も借りて、タヌキ化け学の粋をこらした「妖怪大作戦」を発動するが、人間たちは決してタヌキたちの思惑通りに受け取りはしないのだった。特定の主人公を追いかけるのではなく、多数のキャラクターを登場させた群像劇のスタイルで、3年余にわたるタヌキたちの集団の変転と、多摩丘陵の変化を描く内容だ。
民話的側面と動物的側面を併せ持つタヌキを作中で表現
『平成狸合戦ぽんぽこ』におけるタヌキたちは、タヌキの持つ2つの側面を兼ね備えた存在として造型された。1つは、民話や昔話などでよく知られているキャラクターとしてのタヌキであり、もう1つは民家周辺にしばしば姿を見せることで親しまれている動物としてのタヌキである。映画制作にあたっては、その両面について細かく資料収集・取材が行われた。特に動物としてのタヌキについては、多摩動物公園のタヌキの観察や動物番組のビデオなどを参考に描かれ、さらに現在のタヌキが置かれた状況については、多摩丘陵野外博物館事務局の桑原紀子やタヌキ研究家の池田啓などへの取材が行われた。
このように民話的側面と動物的側面を併せ持つタヌキを作中で表現するため、シチュエーションによって4つの姿を使い分けることが決まった。