東京の街を歩き回ると建設用のクレーンがそこかしこに林立している。都心部は超高層オフィスやホテル、商業施設の工事がここかしこで進行中。鉄道主要駅の駅前を中心にタワマン建設の槌音も響く。

 いっぽうで建設現場での事故や施工不良も相次ぐ。先日は東京駅八重洲口前の超高層ビルの建設現場で鉄骨が落下。作業員の方々が亡くなるという惨事があった。札幌市のオフィス、ホテルなどで構成される複合ビルの建設では、鉄骨の精度不良から建設途上でのやり直しが発生。東京都港区の超高層オフィスビルではコンクリート床の高さにずれが生じてOAフロアの施工ができず、工期が遅延するなど今まででは考えられないようなミスも目立つようになっている。

 原因は上がり続ける建築費だ。国土交通省発表の建設工事費デフレーターによれば、2015年度基準(指数=100)で、23年6月現在の指数は、建築総合分野で124.2を示している。コロナ禍が始まる20年2月段階では108.2であったからコロナ以降に大幅に上昇したことがわかる。

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 私自身いくつかの不動産開発計画に携わっているが、現場感覚でいえばここ2、3年で3割から4割程度は上がった印象だ。

建築費が上がり続ける5つの理由

 理由は5つある。まず建物を建設する際の建築資材の高騰だ。オフィス建設などに必要な鉄骨、住宅用の木材などは世界的な建設需要の高まりもあって供給がひっ迫している。最近の大規模建物に使われる外装・内装材の多くが海外品だ。外壁に使う花崗石製品、アルミカーテンウォール、内装の大理石、造作家具などに至るまで多くが日本は海外からの輸入に頼っている。コロナ禍以降世界的な金融緩和と、東アジア、東南アジアの経済発展で建築資材の供給がひっ迫している。世界的なインフレ傾向は輸入材に頼る国内の建築費の値上がりにおおいに影響を与えているのだ。

写真はイメージ ©iStock.com

 2つめがウクライナ戦争などに伴うエネルギーコストの高騰だ。原油価格の高騰は輸送コストや電気代の上昇を招いている。エネルギーは建築資材の製造や物流などすべての面でコストアップの要因となる。

 3つめが世界的な半導体不足だ。建設の世界でもエアコンや照明装置、給湯器や床暖房といった設備に半導体は多く使われている。建物ができあがっても設備が入らないのでは稼働ができない。設備系のコストアップも全体の建築費の値上がりに拍車をかけているのである。

 4つめとして輸入材が多いということは、昨今の円安がこれら資材の調達コストをさらに引き上げることに貢献している。先進国の中で日本だけが低金利という一人旅を続けているが、内外金利差は為替安を招く結果、輸入資材価格は為替分、さらに上乗せされることになるのだ。