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 これまで述べてきたように、全国にコナモン文化が広まったのは戦後の20年代~30年代だ。戦前に植民地から輸入していた米が途絶え、不作なども重なった食糧難の時代、小麦粉食が日本人のカロリーを支えた。30年代に入るとアメリカの余剰小麦粉が大量に輸入され始めた。それらの小麦粉で、最初は大人の代用食、後には子供たちのおやつとして、コナモン文化は拡散した。

北海道の主な老舗のソース焼きそば(筆者撮影)

食糧難でも小麦に頼らずに済んだ

 しかし、北海道は小麦はもちろんだが、トウモロコシやジャガイモなども豊富にある。現在でも、カロリーベースの都道府県別食料自給率でいうと、ほとんどの地域が100%を割っているのに対して、北海道は200%前後、全国1位だ [※14]。他地域で食糧難でも、北海道では小麦粉に頼らずに済んだ。わざわざお好み焼きや焼きそばを作らなくても、食糧には事欠かなかった。またソースについても、他地域に比べて北海道は需要が高くなかった。戦争末期から戦後にかけて、味噌や醤油が政府に統制されていた時代に、それらの代用品という役割も担って、ソースは市場を拡大した。しかし、味噌も醤油も、昭和初期までは各家庭で作るのが当たり前だった。

 例えばキッコーマン国際食文化研究センターが刊行している研究機関誌『FOOD CULTURE No.26』の、「郷土料理からみた醤油の地域特性」という記事では、《地方の古い味噌・醤油会社は、大正から昭和初期に本格的に開業したところが多い》と述べられている[※15]。つまり、それまでは各家庭で作るしかなかった。昭和20年代なら、もちろんそのノウハウも残っている。

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ソースを購入してまで使う必要がなかった

 また、私の知り合いには、今でも毎年味噌を仕込んでいる農家がいる 彼の住む地域ではごく当たり前の習慣だそうだ。戦中・戦後でも、大豆や小麦、麴・もろみなどの原料さえ揃えば、味噌や醤油は家庭で作ることができた。

 そして北海道には食糧難の時代でも、その原料があり、味噌も醤油も自家製できた。つまり、ソースを購入してまで使う必然性がなかった。

 そのような背景があって、北海道にはコナモン文化が広まらなかった。東北も似た状況にあり、ソースの消費量は少ない。かつては東北・北海道にチキンソースやワニソースという地ソースもあったのだが、残念ながら姿を消してしまった。


※1 日本経済新聞 2007年9月14日夕刊「夕&Eye 九州味めぐり」
※2 フジテレビ『もしもツアーズ』2014年7月12日放送回より
※3 福岡県感染防止認証制度申請サイト 感染対策事例紹介 焼きそば 永楽「昭和24(1949)年に直方市で創業し、 宮若市に移転して1年続く老舗です」(2022年12月22日確認)
※4 想夫恋ホームページ 漫画『想夫恋物語』(2022年12月22日確認)
※5 店主から聞き取り
※6 SAGATV「グルメ×HUNTER」 2019年5月2日「昭和34年創業、60年続くお好み焼き店が唐津市厳木にあります」(2022年12月22日 メタタグのディスクリプションで確認)
※7 mixi初代福田流ちょぼ焼き「お店の閉店 (最終営業日2006年12月18日月曜日)」「昭和25年、1951年頃開業(出典:TKU、閉店時のテレビ放映に『創業55年に幕』)」(2022年12月23日確認)
※8 宮崎にくてんの老舗かわさき公式サイトより(2022年12月23日確認)
※9​ 加茂川ホームページより(2022年12月23日確認)
※10 函館市公式観光情報サイト「はこぶら」より(2022年12月23日確認)
※11 ロケットニュース24 2016年6月5日放送回より
※12 風月ホームページより(2022年12月23日確認)
※13『全国イイ味ハマル味』 2013年8月23日放送回より、帯広「焼きラーメン」 コメント「昭和35から40年ごろ、帯広市西3条南10丁目の南9丁目側に『バーくろんぼ』『アザミ食堂』 『エビス』 が並んでいて、『エビス』で焼ラーメン(その他のメニューは無かった)をやっており、エビス廃業後、隣の『アザミ食堂』が焼ラーメンを受け継ぎました」(2022年12月23日確認) 
※14 農林水産省 「令和2年度(概算値)、令和元年度(確定値)の都道府県別食料自給率」より
※15 福留奈美・宇都宮由佳 「郷土料理からみた醤油の地域特性」 『FOOD CULTURE No.26』 8~25頁 (2016、 キッコーマン国際食文化研究センター)

しおざきしょうご/1970年生まれ。静岡県出身。ブログ「焼きそば名店探訪録」管理人。国内外1000軒以上の焼きそばを食べ歩く。テレビ、ラジオなどメディア出演多数。本業はITエンジニア。

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