養老 マツは弱いんですよ。木は葉っぱを払って、逆さまにした形で考えるんです。そうすると根っこの張り方、枝の張り方がわかる。それで言ったら、東京なんか地面をガチンガチンに固めてしまって......。
キクリン よく木が頑張ってますよね。
養老 人間って相当にアホだと思いません? 僕はよく言うんですけど、考えてなんとかなるという発想には限度がきてますよ。考えてなんとかならないことが全部問題として残っている。それを環境問題って言ってるんです。何が解決に繋がるのかわからないから、僕はいつも「しょうがない、なるようになる」って言ってますよ。なるようになるというのは、社会で生きていく上では必要な自然な感覚です。でも都会の感覚ではないんですよ。都会で「なるようになる」なんて言ったら、たちまち押しつぶされる。
キクリン 都会ではダメですか?
養老 社会の原理が違いますからね。そんなこと言ってたら、食っていけなくなるのが都会ですから。田舎は逆でしょ。耕せば収穫が得られる、そんなの嘘です。そもそもジャガイモの原種ってどうやって生きてたんですかね? 南米で、勝手に生えてたんでしょ。
『木村さんのリンゴ』(小原田泰久/Gakken)っていう本を読むとよくわかります。木村さんのリンゴ園は隣と接してるんですよ。ある日ね、隣のおじさんが来て、「木村さんが草ぼうぼうにしてるから、虫が寄ってくる」と言う。木村さんが「わかりました、あとでもう1回来てください」と。夕方になって隣のおじさんが来たら、木村さんがリンゴ園の境に立って見ている。すると、木村さんの果樹園の方から向こうに行くんじゃなくて、隣のおじさんの方から、虫がみんな飛んでくる。こっちの方がいいんだもん。草が生えてるから。
今も分布を広げているのか?
キクリン 日本は氷河期が終わって、そこから暖かくなってきて最初は草原が広がり、木が生えてくる時代になる。虫が多くなり、各地に分布していくのはそのあたりからなんでしょうか?
養老 日本列島ができあがった頃のことを、頭に入れておくのが一番いいと思います。僕の頭の中では氷河期なんてついこの間のことです。日本列島成立直後を地質学者が書いた地図がありましてね、これが参考になる。いわゆる虫の多いところというのは、基本的にその頃に陸地だったところです。関東なら日光や秩父で、虫で有名なところばっかりですよ。
ゾウムシのことで調べていて気になったのが、四国の東と西。おそらくこの時期に、少なくともその前後には切れていたんだと思うんです。東で採るのと西で採るのとでは違うので。オオクワガタではどうですか?
キクリン 四国の中での東と西ということですね。香川県側はよくいるんですけど、愛媛県側はなかなか採れないんで。でも、もともといたのは間違いないでしょう。分布のルート的にたぶん、対馬経由で大陸から来ている感じがします。
養老 後からできた陸地はそれまでは海だったわけで、虫は少ない。由緒正しい虫がいない。おそらくそういうところに、古くから陸だった場所にいた虫がこぼれていった。関東だと秩父と日光から広がっていったのでしょう。