鉄道のプロがリストアップし、バスのプロがルートを作った

「今年の頭に能登が地震で大変なことになり、応援鉄というテーマならば能登とか石川県をなんとか訪問先にできないかなっていうところから始まってるんです」(大井川鐵道・山本氏)

  2023年に開催した第1回は、前年に被災したくま川鉄道と肥薩線と南阿蘇鉄道を巡る九州の旅だった。

「でも石川県の能登の方って、まだ復旧が進んでいない。我々が応援したいと行くのは勝手なんですけど、迷惑になる可能性がある。そこで隣の富山県にしようと。富山県も被災しているし、そこへ行くのも被災地応援になるんじゃないか。加えて、6月に大井川鐵道の社長が変わった縁で、社長の前任地のえちごトキめき鉄道さんを加えました。

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  それで富山へ行く途中には岐阜を通りますよね。岐阜の明知鉄道と長良川鉄道に知り合いがいたので、繋げていったら太平洋側から日本海側までになっちゃった」

えちごトキめき鉄道

  言われてみると、時計回りで各鉄道がきれいにつながっている。鉄道で乗り継いだら2泊3日では回れなそうだ。今回のルートは、時刻が決まっていて運行本数も少ないローカル鉄道と、自由にルートや時刻を決められるバスのいいとこ取りなのだ。

「訪問先は僕の意向も入ってますが、ルートはグループ会社の大鉄アドバンスが作ってくれました。ドライバーの距離規制なども考慮する必要があるので、本職に任せる必要があったんです。僕は『こことここ、あとここも行きたい』っていうだけなんです(笑)」

「バスをいつも走らせてる人間だからこそ思いつくルート」

  行程表のバスの移動時間は、少し余裕を持って長めに設定している。たとえば冒頭で長いと指摘した静岡県の川根温泉笹間渡駅から岐阜県の明知鉄道明智駅までの所要時間は、行程表では4時間。しかしドライブナビサイトで調べると2時間ほどだ。最高時速120kmで走れる新東名高速のおかげで、途中の休憩や集合解散の時間を入れても意外に短い。

 明知鉄道では圧縮空気でSLを動かす。車掌車に体験乗車できる(大井川鐵道提供)

  5時間と見積もられている新潟県の妙高高原駅から静岡駅までの所要時間も、同様に調べると3時間台となる。このコースは長野自動車道、中央高速道路、中部横断自動車道を経由する。途中で日没になるとはいえ、15時台の出発だから信州の山並みの景色を楽しめる。交通状況によっては眺望と温泉で知られる諏訪湖サービスエリアにも立ち寄れそうだ。

「静岡から岐阜までは、意外と近いんです。僕も初めて知りました。長良川鉄道の美濃市駅から氷見駅までは東海北陸自動車道で、合掌造りで有名な白川村を通っていくルートで、バスをいつも走らせてる人間だからこそ思いつくルートなんだと思います。これは大井川鐵道グループが旅行業部門やバス事業を持ってる強さなんです」

  第三セクター鉄道は鉄道単体で勝負しなくてはいけないところ、大井川鐵道は完全な民間資本なので、グループ全体で旅の仕掛けを作ることができるのだ。

「今回は全行程を大鉄の観光バスで回るので、お客様が鉄道移動する区間も実はバスが伴走しています。今後は現地のバス会社にお願いすることもあるかもしれませんが、どこも運転手不足が深刻でお願いしにくい事情もあります」