近年、「転職」はより身近なものとなっている。株式会社マイナビの調査によると、2023年の正社員の転職率は7.5パーセントで、調査を開始した2016年と比べて約2倍の数値となっている。

 その一方で、元の会社を円満に退職することが難しいケースもある。今回は、“ワンマン社長”が経営するブラック企業で5年間働いたあと、試行錯誤しながら「円満退職」達成した29歳女性に話を聞いた。
 
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 岸本明日香さん(仮名・29歳)は、昨年8月に約5年間勤めた広告代理店を退職した。

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昨年8月に広告代理店を退職した岸本明日香さん(仮名)

「キャリアアップをしたい、という気持ちもありましたが、社長との関係に悩んでいたのも退職理由のひとつです。勤務していた広告代理店は、社員20名ほどの小さな会社で、ワンマン気質の社長に振り回される毎日に疲れてしまいました。たとえば、新卒で入社して1週間くらいの頃に、社長から『都合がつかない、できないは言わずに仕事を受けろ』と指導され、新人には到底無理な仕事を振られたんです。先輩もフォローしてくれましたが、案の定うまくいかず社長から『できないならちゃんと言え!』と怒鳴られたときは混乱しました」

「女性らしい服は着るな」社長の時代錯誤な“社員教育”

 ワンマン気質の社長による“社員教育”は、これに留まらなかった。朝礼で社長が話す自慢話に対して、社長が望まない回答をしてしまうと「視野が狭い」と詰められるほか、「女性らしい服は着るな」「長い髪は仕事に支障をきたすからショートカットにしろ」など、セクハラ・パワハラ問題に発展しそうな“指導”も日常茶飯事だった。

「社長は小柄ですが、恰幅が良くて色黒。豪快そうな風貌とは裏腹に、神経質な性格なんです。気になったことは全部言わないと気がすまないようで、その都度会議室に呼ばれました」

 こうした指導の“矛先”は彼女だけではなく、社員全員に向けられていたという。社長の呼び出しは数時間に及び、その間、社員は仕事をストップせざるを得ない。