隠れた主役は観客だ
何がいいかって? 例えば冒頭、ライヴ開始前のステージに向かって両手を上げて拍手を送る大群衆をカメラは捉える。誰もがショーの始まりを待ち望んでいる。その期待が観ているこちらにも伝わる。ライヴ開始へのカウントダウンがステージに表示されただけで、みんなもう大騒ぎ。声を合わせて「5、4、3、2、1」。そしてメンバーの登場で熱気は一気に最高潮に。兄、ノエルがギターの音を響かせると、弟のボーカル、リアムが「ネブワース、いくぞ!」の掛け声とともに最初の曲に入っていく。リアムの背中越しに、リズムに合わせて頭上で手をたたく大観衆の姿が映る。これだよね。これがロックショーだよ。この曲を僕は知らないが、それでもライヴに興奮する観客の姿に興奮する。
この映画の隠れた主役は観客なんだと思う。ロックスターはカリスマだけど、彼らをカリスマたらしめているのは観客、ファンたちなんだ。スターに熱狂する観客がいなくちゃライヴは盛り上がらない。コロナの時代には「無観客興行」というのがあったけど「無観客ライヴ」なんてありえないでしょ。それを意識してか、カメラは頻繁に客席を捉える。会場を埋め尽くす12万5000人が一斉に手拍子を送る、縦ノリする、踊る、飛び跳ねる、声を合わせて歌う。代表曲「ドント・ルック・バック・イン・アンガー」ではノエルの歌声に合わせて客席の女性たちが一緒に歌う姿が大写しになる。ライバルバンド、ブラーとのシングル同日発売が話題になった「ロール・ウィズ・イット」では、リアムがギタースタンドを客席に投げ込み興奮をあおる。
観客はライヴに酔い、リアムは酒に酔う
その姿を見てふと、子どものころ大好きだったテレビ番組『8時だョ!全員集合』を思い出した。ドリフターズのリーダー、いかりや長介が冒頭、ステージで大きく指を差し出し「8時だョ!」と声をかけると、客席から一斉に「全員集合!」と声が返り、オープニングテーマ曲に入っていく。観客が応えてくれなきゃ番組が始まらない。やはりカリスマは観客が作るんだ。オアシスもそこを意識しているのか、特に出足でしきりと聴衆をけしかける。
「盛り上がってるか?」
「後ろの奴らも騒げ」
「前の曲ではみんな怠けてたな。次はちゃんと踊れ」
俺たちがいくらノリノリでプレイしたって、客席が盛り上がらなきゃ意味ないじゃん。そんな感覚があるのだろう。リアムはステージで黒ビール片手にこんなことも言う。
「俺もお前らも酔ってる。だからこんな感じでいこうぜ」(左腕を波打つように揺すりながら)