「湘南」という名の特急列車がある。その名の通り湘南地域、小田原や平塚から東京駅・新宿駅までを結んでいる特急列車だ。運転本数は下り12本・上り10本。なんだか洒落込んだ名前の特急で、湘南方面への観光にはうってつけ……と言いたいところだが、あんがい馴染みのない人も多いのではないかと思う。
というのも、この特急「湘南」、下りは夕方以降、上りは朝だけに走っているというほぼ完全なる通勤専用特急なのだ。天下の横浜駅すらも通過するという特殊なスタイルを持ち、湘南地域を首都圏のベッドタウンとしている人たちの都心への通勤を支えている。
そんな変わり種の特急が走る湘南地域。その中心的なターミナルは、藤沢駅だ。藤沢駅の1日の利用客は約10万人。JR東日本の駅の中では30位にランクインし、ほかの湘南地域のどの駅よりも多い。JRの東海道線に加え、小田急江ノ島線や江ノ電も乗り入れて、つまりは湘南のシンボルたる江の島方面にも線路が続く。いわば、湘南きっての交通の要衝といっていい。
となれば、きっと湘南らしい海ムードが漂う駅なんでしょう……などと思いながら、藤沢駅にやってきた。
湘南のターミナルらしい賑わいぶり
東海道線の藤沢駅のホームには、オレンジとグリーンに塗られたド派手な電車のようなものが置かれている。いったい何だと近づいて見れば、小さな売店だ。
このオレンジとグリーンの組み合わせは、「湘南色」と呼ばれている。1950年に登場した80系電車から採用されたもので、何でもみかんの実と葉っぱをイメージしたものなのだとか。以後、湘南地域を走る電車はおしなべてこのカラーリング。いまでは全面塗装の電車はなくなったが、東海道線は湘南色の帯を巻いている。湘南色の売店がホームの上にあるあたりからして、藤沢駅は湘南の中心ターミナルだということがよくわかる。
そして、駅の周囲もまた、湘南のターミナルらしい賑わいぶりだ。
あいにく海とはちょっと離れているので潮の香りなどは漂ってこないけれど、活気がみなぎっている。どちらにもペデストリアンデッキが広がり、駅前広場を取り囲む商業ビルと直結している。南口なんて、ODAKYU 湘南 GATEという小田急百貨店を核とした商業ビルが正面にあって、その中には江ノ電の乗り場がある。ビルの壁面に掲げられた「江ノ電」の看板は味わい深く、ああ湘南、といった心持ちにしてくれる。