「これはスタンドアローン(自社単独)に舵を切ったという明確な意思表示だ」

 セブン&アイ・ホールディングス(セブン)の元幹部は今回の人事をこう評する。同社の井阪隆一社長(67)が退任し、取締役会議長のスティーブン・ヘイズ・デイカス氏(64)が新社長となる。

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非上場化(MBO)計画が頓挫

 3月3日午前に日経新聞がこの人事を報じた頃、井阪氏は社内で「打ちひしがれる様子もなく淡々としていた」(同社幹部)。

 

 今回の人事に繋がる激震が同社に走ったのは2月27日。カナダのコンビニ大手・アリマンタシォン・クシュタールの7兆円超の買収提案への防衛策として、昨年11月にセブンの創業家が提案した買収による非上場化(MBO)計画が頓挫したことが伝わったのだ。

退任する井阪社長

 経済部記者が解説する。

「計画はクシュタールの提案を上回る総額8兆〜9兆円の調達を目標に、セブン副社長で創業家の伊藤順朗氏が窓口となり、パートナーの伊藤忠商事と協議が進められていた。出資額は創業家が5000億円、伊藤忠が1兆円。しかし、MBOのために設立する特別目的会社の取締役の数や議決権の割合で折り合わなかった」

社長として万策尽きたと判断

 ある伊藤忠関係者は、こう苛立ちを隠さない。

「MBOの全体像や伊藤忠傘下のファミリーマートとのシナジーがまったく見えず、経営会議に諮る前の現場の条件交渉で終わった。ウチの岡藤(正広会長)もヤル気だったのだが……」

伊藤忠の岡藤会長もショック

 その直後の井阪社長の退任報道。井阪氏は9年前、当時の鈴木敏文会長に社長退任を迫られたが、創業家の“信任”を得て、逆に鈴木氏を退任に追い込んだ。

「今回も、井阪氏ら経営陣がクシュタールの提案に対抗し株価を上げるための効果的な策を打ち出せない中、創業家を頼りMBO計画が浮上した経緯がある。順朗氏にしてみれば、祖業で不振のイトーヨーカ堂を中核とし昨年10月に設立したヨーク・ホールディングスの会長就任が決まっており、この再建に集中するはずだった」(セブン関係者)

 創業家の“プライド”と経営陣の期待を背負い、巨額のMBOに臨んだ順朗氏だったが「資金調達の目途が立たなくなった」と断念。

「この頓挫で井阪氏も社長として万策尽きたと判断したのでしょう」(同前)