小学生にハックされるシェアサイクル
安田 いっぽう、昨年の大盛り上がりと比べると、今年はいわゆる中国的イノベーションの話題は低調です。「中国スゴイ」的な言説はまだ多いのですが、新規の燃料投入はないように思える。
山谷 シェアサイクルも無人コンビニも、実態は意外とショボいですからね。ちなみにシェアサイクル大手のofoの車両は、鍵をかけない状態で乗りこなす方法が見つかって、小学生とか低所得層の人がハッキングしてタダで乗っています。最近の車両は対策がなされるようになりましたが、すでに街角に投入された大部分の車両は未対策です。
安田 街角で鍵がぶっ壊れたofoを探して乗るのは、中国で知り合いがやっていました。シェアはしているけど、エコノミーは回ってない(笑)。
山谷 ところでシェアサイクルは従来の大手だったofoやモバイクがヘタってきて、後発のハローバイクなんかを街でよく見るようになっています。ただ、どうやって収益を上げるかはいまだに見えていないみたいで、業界全体としては非常に危ういものになっている。少し前まで中国のどこでも車両がみられたofoが、今年11月には経営危機の話が出てきていましたし。
安田 ofoはいよいよ業績が不調になってきて、株価対策のために進出した日本のサービスはなりふり構わず撤退しちゃったし、中国国内でもデポジットの未返金騒動が起きています。昨年時点では中国的イノベーションの旗手みたいに扱われていたシェアサイクルですが、実はどう収益を上げるかを誰も考えていなかったという、ものすごい内実が明らかになってきましたよね。
そんな商売が「投資が集まればなんとかなるだろ」「なんとかならなくても、創業者の手元にカネが残ればいいか」みたいなノリで競合他社が乱立したのはすごいというか、実に中国らしいと言うか。勢いだけでボンボン投資する側もすごいのですが。
山谷 今年になってさすがに、そういうモデルの不毛さは広く認識されるようになっていますね。アリババのジャック・マーも今年の10月に「ベンチャーキャピタル(VC)の投資ブームは収束しつつある」といった発言をしていますし。「IT業界にじゃぶじゃぶ投資すれば成功する」という考え方は変わっていくでしょう。
「中国スゴい!」「深圳スゴい!」が拡散する仕組み
山谷 最近、中国でイノベーションが盛んだとされている広東省深圳を過剰に褒めたたえて「深圳スゴい」とか騒いでいる人たちが結構いるじゃないですか。
安田 そうですね。従来、中国とあまり縁がなかったテック系の人なんかが深圳に行って「スゴい!」を連発するのが、ここ2年くらいの傾向です。
山谷 でも、個人的には彼らに危うさを感じるんですよ。中国に行けば面白いデジタル製品がいっぱいある――。ここまでは確かにそうです。それで、ネットで「深圳はスゴい」と書かれていたから深圳に行って「スゴい」と言う人がいる。でも、同じものは上海や北京にも、さらには雲南省の昆明にもあったりするわけです。
安田 他のあやうさで言うと、中国の会社って、中国人の自己顕示好きな個性と、投資の獲得という事業上の目的があい混ざって、とにかく話を盛りますよね。でも、彼らの美しい青写真と現実の間には、アラフォー婚活サイトユーザーのサイト登録写真と、日常の本人の姿くらいの壮大なギャップがある。
山谷 それを把握せずに「中国スゴい」「深圳スゴい」となっちゃう人は多い。中国企業のプレスリリースを真面目に信じるのはヤバいはずなんですが、それを日本の「深圳スゴイ」系日本人が真面目に信じ込んでネットで紹介しちゃう。
安田 結果、もっと影響力のあるインフルエンサーがそれを信じて拡散して、「日本の常識」になっちゃうという怖さがあります。
山谷 中国企業のフカし情報が、裏取りがないまま日本で拡散するエコシステムみたいなのができてしまってるんですよ。