メイク・アメリカ・グレイト・アゲイン

第75回

藤原 正彦 作家・数学者
ニュース 社会 政治 国際

■連載「古風堂々」
第70回 ユーモアさえあれば
第71回 追憶の紀元節
第72回 壮大ないじめ
第73回 交渉の心得

第74回 私のつまずき
第75回 今回はこちら

 お騒がせのトランプ米大統領が、ハーバード大学に対しDEI(多様性、公平性、包摂性)施策の見直し、反ユダヤ主義的活動の取り締まり、反米的価値観を持つ学生の政府への報告、などを要求した。これらを同大学への約一・三兆円に上る助成金継続の条件としたのである。大学は無論これを拒否した。学問の自由に直結する大学の自治は民主国家では常識だからである。早速トランプは研究助成金を減額し、続いて同大の留学生受け入れ資格まで停止した。多くの研究者は研究中断を余儀なくされ、在籍する留学生六八〇〇人(全学生の約三割)はこのままでは同大から追い出されることとなった。

 実際ハーバードはかつて、学力試験だけで合格させると日本人や中国人が多くなり過ぎるということで、白人に数十点、黒人や中南米系に百点以上の下駄をはかせていた。一部の白人たちが逆差別と騒いでいたほどだ。また、昨年一月までは黒人女性が学長だった。こんなことが気に食わなかったのだろうか。それともDEIを高く掲げながら教授の約八割は白人、という偽善を許せなかったのだろうか。

 ただ、アメリカの一流大学が反ユダヤ的になることなど考えられない。教官や学生にユダヤ系が極めて多いからである。私のアメリカ時代の同僚にはユダヤ系が多かったし、数ある女友達の中では理屈っぽいイレーヌや可愛らしいルベッカがユダヤ系だった。トランプが中間選挙を念頭に強力無比なユダヤロビーに秋波を送っているのだろう。米人口の二%ほどのユダヤ系は言論界、金融界、政界に絶大な影響力をもつのだ。

 反米的学生の報告は言論の自由の蹂躙で論外だ。どこの国でも一流大学の学生の多くは反政府的、少くともリベラルである。私が学生の頃など、私をはじめ級友ほぼすべてが左翼的だった。現実は知らぬが正義感や理想に燃える若者にとって、政府はいつも愚劣で腐敗した存在なのだ。ハーバードいじめは、民主党やリベラルの中枢に打撃を与えたいからだろう。留学生への酷い仕打ちは、同大学に学ぶ一三六五名の中国人留学生が真のターゲットではないか。

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source : 文藝春秋 2025年8月号

genre : ニュース 社会 政治 国際