ユーモラスでありながら、的確な観察眼で読者を惹きつける漫画家・エッセイストの東海林さだお(1937〜)。“ショージ君”の唯一無二の魅力について、作家・椎名誠氏が寄稿した。
東海林さんの大ファンだったので、自分がモノカキになるとすぐに文藝春秋の東海林さんの担当編集者に頼んでご本人にお目にかかった。今から40年ぐらい前のことだ。仕事とはまったく関係がなかったのでレストランでビールのみつつ、という段取りになった。ファンといっても若い女の子ではないので、東海林さんはつまらなそうな顔をして黙って座っていた。なんの用件もないのだから面会を求められたほうはたしかにつまらなかったでしょうなあ。間に立ってくれた編集者がそれに気づいたらしくとにかくビールを飲みましょう、となった。

頼めばビールはすぐに出てきたけれど、互いの味の好みがわからないのでツマミはすぐには決められない。東海林さんはさらに黙っていたがやはりつまらなそうだった。正直なひとなのだ。ぼくは焦り、メニューを見つめて緊張していた。何を頼んでいいのかわからないのでメニューのいちばん端から10センチぐらいのところまで示し「ここからここまでを下さい」などとウェイトレスに頼んだ。
東海林さんはそこではじめて少し気を許してくれた感じになり「ツマミを寸法で注文するのはなかなかいいね」と言った。

このオホメの言葉に励まされ、以来東海林さんとは何度もお目にかかり、いろんな話を聞き、たくさんビールを飲みプハーッなどと大きな吐息をついては喜んでいた。これまで店はかわれどツマミはメニューの幅にすると10メートルぐらいは食ってきたような気がする。

東海林さんの描くマンガやエッセイは世相をとらえて常に「おかしい」。どこからそういう発想やひらめきを得ているのだろうか。そのとらまえかたを知りたかった。
東海林さんは驚くべき博識家で、モノの見方や考え方が常に本質をついてキッパリ冷静だ。その知見と見識からくる価値観が実に鋭いのだ。
有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。
記事もオンライン番組もすべて見放題
初月300円で今すぐ新規登録!
初回登録は初月300円
月額プラン
初回登録は初月300円・1ヶ月更新
1,200円/月
初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。
年額プラン
10,800円一括払い・1年更新
900円/月
1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き
電子版+雑誌プラン
18,000円一括払い・1年更新
1,500円/月
※1年分一括のお支払いとなります
※トートバッグ付き
有料会員になると…
日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事が読み放題!
- 最新記事が発売前に読める
- 編集長による記事解説ニュースレターを配信
- 過去10年7,000本以上の記事アーカイブが読み放題
- 塩野七生・藤原正彦…「名物連載」も一気に読める
- 電子版オリジナル記事が読める
source : 文藝春秋 2025年8月号

