歴代受賞作のベストは選べないので、思い出深い1冊を挙げる。綿矢りささんと金原ひとみさんのW受賞で芥川賞が大きな話題になったあの年、わたしは中学3年生だった。幼少期から本が好きだったけど、わたしの世界に明確に「芥川賞」が登場したのは、この時からだ。初めて自分で「文藝春秋」を買ったし、新聞記事も切り抜いてノートに貼った。

中学、高校、社会人になってからと、少なくとも3回は『蹴りたい背中』を読み返しているはずなのに、「さびしさは鳴る。」という有名な書き出し以外の細かな記憶は曖昧だった。わたしは読んだ内容を繰り返し忘れるという記憶力の持ち主で、どの本も「好きだった・苦手だった」という感情の記録ばかりが残っている。今回も新鮮な気持ちで本を開いたら、やっぱりおもしろかったので、すこしおどろいた。高校1年生の登場人物たちと同世代だった時に読み、心の底を叩いてきた作品が、30代半ばの今も同じ深度に響くとは限らないと、これまでの読書経験で感じていたからだ。
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source : 文藝春秋 2025年9月号

