J・リンのジグソーパズル

中島 京子 小説家
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 懐かしいものに関しては、豆腐屋さんと焼き芋屋さん、だろうか。

 子どものころは団地に住んでいたが、コンビニは当時まだなかった。スーパーマーケットのサミットができて話題になったりしていたが、自家用車のない我が家からは遠かった。

 団地からバスで10分ほどの私鉄の駅の近くには商店街があって、八百屋さんも肉屋さんも魚屋さんも味噌屋さんも、なんでもあった。米屋さんと酒屋さんは配達があった。

 そして、ときどき商品を積んで団地にやってくるリヤカーや軽トラックがあって、それらを大人たちは露天商と呼んでいた。子どもは文字ではなく音で覚えるので、ロテンショーというものだと思っていた。70年代の、半ばくらいまでのこと。

中島京子氏 Ⓒ文藝春秋

 豆腐屋さんは自転車の荷台に水の入った大きな四角い箱を積んでいた。「プ~ウ~」というラッパの音が響くと、アルミのボウルを持たされて、買いに行かされた。

「お豆腐一丁と油揚げ2枚下さい」

「もめん、きぬ?」

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source : 文藝春秋 2025年9月号

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