「奇妙で立派な巨木」ジョン・リスゴー

第242回

芝山 幹郎 評論家・翻訳家

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エンタメ 映画

 変わった木があるな、と思っていたら、それがいつの間にか立派な巨木に育っていた。

 ジョン・リスゴーに対する第一印象は、大まかに言うとこんな感じだった。

 だが、自分の考えをよくよく整理してみると、これはやや正確さを欠く。リスゴーは、初見のときから早くも堂々とした樹木だった。幹が太く、枝ぶりが見事で、葉っぱも青々と輝いている。顔と名前を私が覚えたのは『ガープの世界』(1982)を見たときだった。

 リスゴーは1945年にニューヨーク州ロチェスターに生まれているから、当時30代後半の年齢だ。映画の世界では目新しい顔だったが、舞台では70年代初めからすでに赫々たるキャリアを積んでいる。落ち着きがあり、風格を漂わせていたのも理の当然だ。

『ガープの世界』で演じた役は、性転換した元フットボール選手のロバータ・マルドゥーンという。193センチの長身に、たくましい筋肉質の体躯。その上、声も朗々と響く。

 凡器ならばその外見だけで勝負に出るところなのに、リスゴーは容姿の特権を後回しにした芝居を見せていた。大きいのにこまやかで、こまやかなのにうるさくない。スケールの大きさと、配慮の行き届いた心根の共存が、まさしく立派な樹木を思わせる。技にも隙がなく、主人公ガープを演じたロビン・ウィリアムズがときおりサイコ的に繰り出してくる変化球の数々も、ストレートに打ち返す。いわゆる芝居臭い芝居で迎え撃つことをしないのも、頼もしく映った。

 この人は、どんな役でもこなせるのではないか、と私は思った。しかも、いわゆる器用貧乏という枠内にとどまるのではなく、スケール感を保持したまま多彩な役に向かえるタイプ。怪優と言えば怪優だが、興味深い新種の出現だった。

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source : 文藝春秋 2026年8月号

genre : エンタメ 映画