研究者も転倒の実態をわかっていなかった
高齢者の大敵である「転倒・骨折」。しかし、いつ、どこで、どう転んでいるのか、実は研究者すらよく知らなかったという。転倒予防研究の第一人者である山田実教授に、最新の知見と今日からできる対策を聞いた。
一年で高齢者が最も転ぶのは何月か、ご存じでしょうか。
答えは5月と10月です。どちらも平均気温が約17度。高齢者にとって、一番活動しやすい気候なんです。行楽シーズンなので、外出先での転倒も多くなります。
次に多いのは冬です。ただ、転ぶ場所は外から屋内にかわります。冬の居間を思い浮かべてください。こたつを出す家が多いでしょう。こたつ布団は、足が引っかかる。しかも、こたつ生活になると、床にティッシュやリモコンなどの物を置いてしまう。それらはすべて障害物です。
さらに、冬は厚手の靴下やスリッパを履きますね。厚手の靴下は滑りやすく、スリッパはつまずきやすい。冬の居間には、転びやすい条件が勢揃いしています。ですから、部屋の片付けを習慣化することは、転倒予防にもなるんです。

転倒には明確な規則性があります。その規則性がわかれば、対策もできる。ところが、転倒予防が専門の私自身、数年前まで転倒現場の“リアル”に目を向けていませんでした。
60年も転倒率が変わらない
コロナ禍の初期、時間ができたので、「転倒研究はいつから行われているのか」を遡って調べてみました。最も古い研究は、1960年。60年以上も前から研究していたのか、と驚きましたが、もう一つの驚きはデータでした。高齢者の転倒率が、1960年に報告された数字と現在のものと、ほぼ同じだったのです。つまり、60年に及ぶ研究が転倒予防に役立っていない。これではいけない、と痛感しました。
なぜ変わらないのか。一つは、研究の成果を社会に伝えきれていないこと。あるいは、「高齢者」をひと括りにしてしまっていたのではないか。研究成果を具体的な転倒防止対策に落とし込めていなかったのかもしれません。
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