昼間の光が「良質な睡眠」をもたらす

コロナに負けない心と身体を作る

内村 直尚 久留米大学学長
ライフ ヘルス
ウイルスや病原菌に打ち勝つには免疫力を高めることが不可欠。そのために最も重要なのが、睡眠だ。朝、昼、夜のメリハリをつけて免疫力をアップさせる「眠り」を専門家が教える。
内村直尚先生(睡眠)uchimura
 
内村氏

深い睡眠で免疫力を強化

 新型コロナウイルス肺炎に打ち勝つには、免疫力を高めておくことが重要です。そのために最も効果的な方法は「良質な睡眠」を確保することです。感染予防対策として、手洗い、マスク、人と距離を取ることなどが言われていますが、私は睡眠のことも、もっと強調すべきだと考えています。

 ウイルスや病原菌などが体内に侵入してきたときに、最初に外敵と闘うのが「ナチュラル・キラー細胞(NK細胞)」です。眠くなってくると、心身が緊張した「交感神経優位」の状態から、リラックスした「副交感神経優位」の状態に切り替わり、NK細胞が活性化します。また、深い睡眠のときに分泌される成長ホルモンにも、免疫力を強化する働きがあります。

 ですから、良質な睡眠が確保できていれば感染しにくくなり、感染したとしても症状が軽くすむ可能性があるのです。

 良質な睡眠を確保するには、規則正しい生活を送ることがなにより大切です。朝、目覚めたときに光を浴びると、約16時間後に「メラトニン」という睡眠ホルモンが分泌されます。たとえば、午前6時に起きれば、午後10時頃には自然と眠たくなる。この生体リズムをつくることが、良質な睡眠につながります。

 ところが、不要不急の外出自粛が要請されたことで、学校が休みになり、テレワークも推奨されて、家にいる時間が長くなりました。そのために、朝寝坊や夜更かしになって生体リズムが崩れるだけでなく、行動制限がストレスとなって、睡眠の質が悪くなっている人が増えたのではないかと危惧しています。

 さらに、スムーズに眠りにつくためにはリラックスすることが大切ですが、「いつどこで感染するかわからない」という不安から、不眠を訴える人が増えています。

 買い物に出ても、「密閉、密集、密接の『3密』を避けるように」とか、「ソーシャルディスタンス(社会的距離)を2メートルぐらい取るように」などと言われているので、いつも緊張して交感神経が高ぶった状態になっています。これは、常に戦闘態勢を強いられているようなものです。

 隣にいる人がひょっとしたら感染しているかもしれない。目に見えない恐ろしい敵が迫ってきて、それからどう逃げたらいいかわからない。たくさんの人が感染して、生命の危機が迫っている。私の患者さんの中にも、そんなふうに思い詰めて、過敏になっている方がおられます。

 さらには、一般の人だけでなく医療従事者の間にも不安が広がっています。感染しているかもしれない患者さんと接するわけですから、医療従事者は武器を持たずに戦場に行っているようなものです。実際にコロナと闘うというのは、そういうことなんです。

 しかし、どんなに忙しくても、人はどこかで息を抜いて、緊張の糸を緩めないと続きません。緊張感が強い状態を長く続け、そのうち限界を超えてしまうと、強い不安やうつ状態を呈するようになる。その症状として最初に出てくるのが不眠です。専門家の間でも、今後、コロナの影響でうつ病が増加し、自殺者が増えるのではないかと心配されています。免疫力を高めておくためだけでなく、不安や緊張感によって起こる2次的な精神疾患を予防し、早期発見するためにも、睡眠はとても重要になってきます。

「昼間の光」が重要な理由

 冒頭にも述べた通り、良質な睡眠を確保するには朝の光を浴びることが欠かせませんが、実は昼の光を浴びることも重要です。なぜなら、交感神経を刺激することで昼間活発に動けるようになるとともに、心身が適度に疲れることで、夜眠りやすくなるからです。

 それだけでなく、昼間に光を浴びれば、夜の睡眠が深くなります。なぜなら、光によってメラトニンの分泌が抑制され、夜に分泌されるメラトニンの量が増えるからです。ところが、生体リズムにメリハリがなくなると、昼と夜のメラトニンの分泌量に変化がなくなり、眠りの質が悪くなってしまいます。

 そうならないためにも、昼間に外出してほしいのですが、今は散歩にも行かなくなった人が多いのではないでしょうか。しかし、人混みを避け、「3密」にならないよう注意すれば、散歩やジョギングくらいはやったほうがいいと私は思います。

 運動ができない場合でも、20〜30分日光浴するだけで、体内時計のメリハリがつくとともに、夜のメラトニンの量が増えて、夜よく眠れるようになります。私の外来に来る車いすや思うように歩けない患者さんも、日光浴をすることで、夜の睡眠の質がずいぶん改善されています。

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20〜30分の日光浴を

 コロナ対策のために、今は外出を自粛しなければならないのは当然のことです。しかし、実は海外のコロナ対策のテキストやガイドラインを見ると、「普段と同じような生活のリズムを保ちましょう」と、必ず記載されています。みなさんも生体リズムを崩さないよう、朝、昼、夜のメリハリを意識しながら生活するように心がけてください。

睡眠の質を高める食べ物は?

 睡眠の質を高めるには、バランスのよい食事も大切です。とくに朝食を摂ることが生体リズムを整えるうえでも重要ですし、食事を規則正しく摂ること自体が、睡眠の質を高めてくれると言われています。メラトニンをたくさん作るには、必須アミノ酸の一つである「トリプトファン」を豊富に含む食べ物がいいとよく言われます。トリプトファンを摂ると昼間に幸せホルモンと呼ばれるセロトニンが作られ、それが夜、メラトニンに変化するからです。トリプトファンは豆腐、納豆などの大豆製品や、卵、乳製品、ピーナッツ、バナナなどに豊富に含まれています。

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source : 文藝春秋 2020年6月号

genre : ライフ ヘルス