菅首相よ“ハンマー”を振り下ろせ

「冬コロナ」を乗り越える

尾﨑 治夫 東京都医師会会長
ニュース 社会 政治 医療
 新型コロナウイルスの第2波が収まり切らないうちに、11月に入って、第3波と呼ばれる大きな波に見舞われている。若者中心だった第2波とは異なり、今回は明らかに高齢者の占める割合が高い。それに伴い重症者・死者の数は、緊急事態宣言が発せられた当時を上回る勢いだ。病床のひっ迫ぶりは日々深刻の度合いを深め、医療関係者の緊張は頂点に達している。

 感染者数が過去最高を更新し続けている東京の医療態勢を担う都医師会の尾﨑治夫会長は、政府の「GoToトラベル」に対して「Not go toキャンペーン」を都民に呼び掛けるなど、これまでも政府の方針に注文を付けてきた。

 その尾﨑会長は、第3波について「政府が方針を大転換させない限り、感染が収まることはない」と危機感を募らせる。第3波を迎えても動きの鈍い政府に対して、「官邸と地方が責任を押し付け合っている。誰が責任を持つのかと問われれば、政府以外にない」と憂える。

 誰もが官邸を気遣い忖度するなか、歯に衣着せぬ言動で危機を訴える尾﨑会長に、感染状況をどう分析し、何が問題なのかを尋ねてみた。(聞き手・辰濃哲郎)
画像1
 
尾﨑氏

「Not go toキャンペーン」

 緊急事態宣言後に訪れた第2波では、東京の1日の新規感染者数は、ずっと100~200人で推移し、入院患者も1000人前後。これが数カ月続いたのかな。でも、それが終わらぬうちに第3波が来てしまった。

 第2波は東京の新宿や池袋の接待を伴う飲食店から全国に飛び火したものの、若者が中心だったから重症化せずに医療機関も持ちこたえることができた。コロナはインフルエンザと同じで恐れることはない、との意見が拡散されて、無防備な人たちも出てきた。

 東京の場合、第3波では夜の街からの感染者は、ほとんど出ていない。20~30代の人が会食で感染するケースは相変わらず多いが、それ以上に家庭内感染が多い。市中で感染した人たちが、家庭に持ち込んでいるのでしょう。新宿や池袋から同心円状に広がっていった第2波と比べ、いまは23区では東の足立区、西の新宿・世田谷区、南の大田区、北の板橋・練馬区、それに多摩地区でも広がり都内全域に及んでいます。

画像8
 

政府は何をしてくれたのか

 7月は新宿を起点とした感染拡大が顕著だったので、22日から始まるGoToトラベルに皮肉を込めて「Not go to キャンペーン」とフェイスブックで呼びかけました。7月中の飲み会・会食は控えましょうと発信し、「コロナに夏休みはない」とも訴えた。

 ちょうどそのころ、ぼくと一緒に国会の委員会に参考人として出席していた分科会の尾身茂会長も、「今の段階で全国的なキャンペーンをやる時期ではない」とGoToトラベルには疑問を持っていた。同席していた東京大学の児玉龍彦名誉教授も「(ウイルスが)新宿からわき出し、それが池袋、埼玉、神奈川、いろいろな道府県に飛んでいっている。非常に危険だ」と話していた。医療の専門家はみんな、感染症が下火になっていない段階でのキャンペーン実施に疑問を感じていたんですよ。

 都医師会としては、これまで様々な取り組みをしてきました。10月には、インフルエンザシーズンに向けての態勢を整えなければならない。だから、コロナとインフルエンザの両ウイルスの検査を担う医療機関の募集を始めたんです。当初は1400カ所を予定していたが、すでに3000カ所ほどに達している。いまは政府もこの方式を全国に呼び掛けている。パクリみたいですが。

 10月には、1日の感染者数が100~200人台で高止まりして、なかなか減らなかった。11月10日の会見では「飲み会やるなら、every ten days(10日おきに)」と呼びかけた。つまり、感染力の強い発症2日前から、発症後5日を目安に、10日ごとなら感染の可能性を減らすことができる。コロナ疲れした都民に向けて、いろんなキャッチフレーズを考えて呼びかけてきたつもり。

 コロナ禍が始まった当初、PCR検査が足りないと知れば、医師会の先生を総動員して、自治体と連携してPCRセンターをつくりました。医療機関が疲弊して病床がひっ迫しているときには、無症状者を隔離するホテルでの宿泊療養も担ってきた。東京都と協力してやったこれらの試みは、やがて厚労省も採用して、全国に広がっていった。いわば東京方式です。

 政府の分科会などの専門家も、連日のように会合を開き、何時間もかけて議論を重ね、提言を続けている。では、いったい政府は何をしてくれたのかを振り返ると、モヤモヤしてしまう。GoToキャンペーンは地域経済にとって大切なことは、ぼくも理解している。でも、それは感染状況との兼ね合いでしょう。

加藤勝信2_TS88264
 
加藤勝信官房長官

分科会提言はギリギリの悲鳴

 感染拡大したときは、有効な対策を打ち出す。小康状態の時は経済を回していく。それを「ハンマー&ダンス」(抑制と緩和)と呼んでいますが、いざ必要な時でも、政府はハンマーを振り下ろさないんですよ。

 国がGoToにこだわっているなかで、分科会などの専門家の危機感は強かったと思う。11月20日の分科会での尾身会長のGoToトラベルの見直し提言は、専門家のギリギリの悲鳴のように聞こえました。

 8月の分科会で、感染状況を判定する6つの指標を作って、ステージ1~4までに仕分けした。ステージ3になったら積極的な対策を講じるようになっていたはずなんです。

 東京は現在、6つの指標のうち5つがステージ3を示している。唯一、PCRの陽性率だけが、目安の10%を切っている。でもね、PCRなんて初期と比べたら何倍も増えているし、東京のPCR件数は全国で最も多い。なかなか10%を超えませんよ。「まだステージ3ではない」なんて、ほとんど屁理屈に近い。

 日本の特徴でもあるけど、基準はつくるが、それをなかなか認めない。東京都も、医療側が警戒レベルを最高ステージに引き上げたい意向を持っているが、「もうちょっと待ってください」と行政側が渋る。いざ上げるとなると、すごく抵抗する。

 東京都で感染状況を医療側と行政側が共有するモニタリング会議で、重症者が50人を超えたら、飲食店の営業時間短縮を要請するという話になった。すでに50人は超えていますが、これを75人に引き上げるべきかどうかで、もめている。国も自治体も、及び腰なんです。

 経済も上向いて、感染者も激増していないときならいいですよ。けど、そのバランスが崩れているから、疫学的にはハンマーを振りかざす時期のはず。

 にもかかわらず、日本の感染者数が過去最多となったときの菅(義偉)首相の言葉には驚きました。国民に、飲み食いでも会話する時はマスクをつける「静かなマスク会食」を呼び掛け、「私も今日から徹底する」ですって。一国の指導者が、いま訴える言葉は、それでいいのでしょうか。

「マスクをしろ」「換気をしろ」と言うだけならぼくらにだって言える。だけど日本の人の流れを止めるのは、政府にしかできない。

 国民の努力でどうにかなる時期はとっくに過ぎている。GoToはどのタイミングで止めるべきなのか。政府が真剣に議論した形跡なんかないじゃないですか。少なくとも見えてこない。ただ、GoToは「地域経済を支えるなかで極めて有力だ」との立場を繰り返してきた。

画像2
 
GoToにこだわる菅義偉首相

因果関係「なし」は根拠がない

 政府はGoToトラベルと感染拡大には因果関係がないと言っているけど、エピカーブ(感染の判明日でなく、発症した日をグラフ化したもの)を見て気づきました。それまで除外されていた東京が加わったのが10月1日。その10月の2週目くらいから増え始めている。ぼくの目の錯覚でしょうか。だから、ぼくは11月20日の記者会見で、「GoToが感染拡大に影響を与えている気が、私はしている」と話した。加えて政府に「中断する決断をしてもらえないか。全国的にはムリなら感染の多い北海道とか東京だけでも考えてもらえないか」とお願いした。

有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。

記事もオンライン番組もすべて見放題
新規登録は「月あたり450円」から

  • 1カ月プラン

    新規登録は50%オフ

    初月は1,200

    600円 / 月(税込)

    ※2カ月目以降は通常価格1,200円(税込)で自動更新となります。

  • オススメ

    1年プラン

    新規登録は50%オフ

    900円 / 月

    450円 / 月(税込)

    初回特別価格5,400円 / 年(税込)

    ※1年分一括のお支払いとなります。2年目以降は通常価格10,800円(税込)で自動更新となります。

    特典付き
  • 雑誌セットプラン

    申込み月の発売号から
    12冊を宅配

    1,000円 / 月(税込)

    12,000円 / 年(税込)

    ※1年分一括のお支払いとなります
    雑誌配送に関する注意事項

    特典付き 雑誌『文藝春秋』の書影

有料会員になると…

日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事、全オンライン番組が見放題!

  • 最新記事が発売前に読める
  • 毎月10本配信のオンライン番組が視聴可能
  • 編集長による記事解説ニュースレターを配信
  • 過去10年6,000本以上の記事アーカイブが読み放題
  • 電子版オリジナル記事が読める
有料会員についてもっと詳しく見る

source : 文藝春秋 2021年1月号

genre : ニュース 社会 政治 医療