アメリカのビジネススクールを経て現在、早稲田大学ビジネススクールで教鞭をとる入山章栄(いりやまあきえ)教授。グローバルな経営戦略に精通する経営学者が推薦したのは、地域に根差した生活協同組合のトップだった。
ビジネスと社会課題の解決との両立
入山教授(早稲田大学ビジネススクール)
いま経営学の世界では、株主(出資者)だけを見て短期的な利益を追い求める株主資本主義に対し、懐疑的な見方が広がっています。CSR(企業の社会的な責任)や、企業活動を通じて社会課題の解決を目指すCSV(共通価値の創造)といった概念はそこから生まれたものです。
今回、私が推す大見(おおみ)英明氏(62)は、北海道全域で展開している「生活協同組合コープさっぽろ」の理事長です。生活協同組合は法律上、出資して組合員にならないと利用できないのですが、これは出資者が同時に顧客でもあるということ。
また、地域の組合員に貢献するという大義名分があれば、商圏が小さく、利益が見こめない場所へ出店することもあります。
つまり生協は、株主資本主義のあり方や、ビジネスと社会課題の解決との両立を考える上で、非常に示唆に富む存在なのです。
日本だと、都市部など地域によっては生協になじみのない人もいるでしょうが、スウェーデンやフィンランドなど北欧では生協が生活インフラを支えています。近年、「日本は北欧モデルを目指せ」という声も聞きますから、もっと生協に注目してもいいのではないでしょうか。
大見理事長(コープさっぽろ)
コープさっぽろでは、宅配ビジネスが収益の大きな柱になっています。コロナ禍で多くの企業が宅配ビジネスに乗り出そうとしていますが、簡単にいかないのは配送網がないから。しかしコープさっぽろは、以前から自前の配達車両、配送拠点を整備していました。これは商圏が広い上に、少子高齢化が進んで買い物弱者が増えている北海道で、店舗販売だけに依存するリスクを予見していたからでしょう。期せずして、それがコロナ流行時に多くの需要を取り込んでいるのです。
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source : 文藝春秋 2021年1月号