迫る徴用工問題「資産現金化」日本が進むべき道は、和解か断交か。日韓問題に精通する5人の有識者が徹底討論!
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▶︎徴用工判決について留意すべきは、韓国側は「不払いの賃金を払え」ではなく「慰謝料を払え」と要求していること。一度認めれば、際限なく範囲が広がる
▶︎韓国の与党、共に民主党は「歴史歪曲禁止法」の成立を推し進めている。これは正しい歴史認識にとって極めて危ない法律
▶︎日韓関係改善のカギのひとつが「北朝鮮」。上手く絡ませることで、文在寅大統領の意識を日本に向かわせることができる
(左から)奥薗氏、加藤氏、城内氏、舛添氏、武藤氏
日韓関係は“最悪の状態”
奥薗 日韓関係は1965年の国交正常化以来、“最悪の状態”に陥っていると、もうずいぶん言われ続けています。これまで「歴史教科書」や「靖国参拝」など、歴史認識が絡む摩擦はいろいろあったわけですが、「徴用工問題」は次元が異なります。日韓関係の根本的な枠組みまで揺るがしかねない、重大な問題です。日韓関係はまさに“厳冬”の時代に突入しました。
舛添 徴用工問題を振り返っておくと、2000年代以降、第二次世界大戦中に強制労働させられた朝鮮出身の元徴用工達が、日本企業を相手に損害賠償を求める訴訟を起こす動きが韓国で出始めました。その多くは棄却されてきましたが、2018年10月に韓国の大法院(最高裁)が、日本製鉄(当時・新日鐵住金)に対して原告1人当たり1億ウォン(約1000万円)の支払いを命じたのです。そこから2年以上が経ちましたが、事態は全く進展せず、膠着状態に陥っていますね。
武藤 日本は歴史問題でできることを全てやったが、韓国が頑なな姿勢を崩さないので、これ以上は対応しようがない。その意味で、ボールはすべて韓国側にあります。
舛添 この状況に変化をもたらす外的要因があるとすれば、アメリカでのバイデン大統領の誕生でしょうか。バイデン氏は国際協調を重視するため、日韓関係の改善に向けて踏み込んでくるでしょう。ここに打開策があるかもしれません。
バイデン大統領
協定で解決済みか、三権分立か
城内 私は大学時代に、当時ほとんど学習者がいなかった韓国・朝鮮語を学び、外務省北東アジア課時代には韓国を担当しました。2000年の森喜朗首相・金大中(キムデジュン)大統領の首脳会談実現にも関わり、大学入試センター試験の外国語科目に韓国語を入れるよう文科省に働きかけました。かつては数少ない親韓派の自負があっただけに、昨今の韓国の行動には腸(はらわた)が煮えくり返る思いです。
そもそも、徴用工も含めた個人の請求権については、1965年の日韓基本条約・日韓請求権協定で「完全かつ最終的に解決した」と合意している。その上で、日本は韓国に経済協力金という名目で有償・無償合わせて5億ドルの供与をしました。その資金もあって、韓国は「漢江の奇跡」と呼ばれる経済成長も成し遂げた。それを今になって、「個人賠償せよ」と“ちゃぶ台返し”をするのは明白な国際法違反です。
奥薗 徴用工問題については、日韓の双方に“譲れない一線”があるわけですが、まずはここを整理しておきましょう。
日本側の一線は、日韓請求権協定で解決済みであり、韓国政府の責任のもとで対処すべき問題だ。日本企業が賠償する形は受け入れられないというものです。一方の韓国側の一線は、三権分立である以上、大法院の判決を覆すことは出来ない。被告である日本企業が関与しない形での解決はあり得ないというものです。お互いに根本的なところで相容れない状況になっています。自分達の一線を守りつつ、どこまで何が出来るのか――。バイデン政権の動きも念頭に置きながら、具体的に検討しておくべきだと思います。
城内 ただ、韓国で「三権分立」が成立しているかどうかは怪しいですよ。昨年12月には、文政権との対立を深めていた尹錫悦(ユンヨクソル)・検事総長が2カ月間の停職に追い込まれている。最高裁の人事についても、文在寅(ムンジェイン)大統領が強大な権力を持って介入しています。そのような“非民主主義的”な国家の判決を尊重しろと言われても、無理がありますね。
文在寅大統領
「財団方式」は解決策になるか
加藤 韓国国内で差し押さえられている日本製鉄の資産については、売却・現金化されるかどうかが注目されています。韓国が資産の現金化に踏み切れば、サンフランシスコ平和条約・日韓基本条約体制を否定することになります。そこまで大それた行動は出来ないのではないでしょうか。
舛添 仮に現金化がおこなわれた場合、どのような対応をとるべきなのかを考えてみてもいいと思います。もちろん、日本企業は損害を被るべきではない。そこで、日本企業が賠償金を支払う際に、韓国政府が賠償金と同額だけ、その企業に免税措置を与えるという方法があります。そうすれば実質的には1円も払わずに済みます。
ただ、それだと韓国政府の補助がダイレクトに見えすぎて、「日本は何の痛みもない」と韓国国民の感情を逆なでする。そこでカモフラージュのために、日韓の両政府と企業が寄付金を出しあって「財団」をつくるんです。例えば、ある日本企業が1億円の賠償金を支払うことになった場合、その財団経由で支払うことにする。そうやって一時的には日本企業への支払いを義務付けますが、その拠出金については税法上の優遇措置をとるという方法はどうでしょうか。いったんは日本企業が支払いますが、最終的には損害が出ない形です。もちろん、両国民を納得させるだけの優れた政治的リーダーシップがないと実現しませんが……。
城内 「財団方式」については、2019年に当時の文喜相(ムンヒサン)・国会議長から提案がありましたが、日本側は拒否しました。私も賛成しかねますね。日本には、いわゆる従軍慰安婦問題解決を反故にされたという苦い経験がありますから。
2015年に安倍晋三政権と朴槿恵(パククネ)政権の間で「慰安婦問題日韓合意」が結ばれ、それによって、慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的な解決」が正式に確認された。日本政府が10億円を拠出し、元慰安婦のための「和解・癒し財団」も設立しました。しかし、文政権はこの合意の過程に問題があったとして破棄、財団の解散を一方的に発表したのです。
いわゆる徴用工問題についても、同じようなことが起こるでしょう。財団を作っても、次の政権に移行した段階で「文政権がやったことなので」と、リセットされてしまうかもしれない。サッカーの試合で“ゴールポスト”を動かすようなことは得意技ですからね。
武藤 私も同感です。そもそも徴用工問題は外交交渉の問題ではない。請求権協定で「解決済み」のものを、韓国側が一方的に蒸し返しているだけなので、韓国側に全責任を負ってもらうしかない。
とめどなく広がる「賠償」対象
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source : 文藝春秋 2021年2月号