現代が生んだ人間と自然の歪んだ関係
今、私はグリーンランドの小さな猟師村に滞在し、イヌイットの友人と犬橇で網をしかけては海豹(あざらし)を回収する日々を送っている。もちろん海豹は人と犬の食料になる。農業の不可能なこの地で人類が生きてこられたのは海豹、海象(せいうち)、鯨等の海獣資源に恵まれているからだ。でも今は猟だけで“食う”ことはできない。なぜか? 要因の一つに近代的な動物保護の考えが先進諸国にいきわたり、昔のように毛皮が売れなくなったことがある。猟による現金収入の道が途絶え、猟師になる若者は激減し、今では犬橇での長期旅行技術も失われつつある。極北狩猟民の伝統は、まさに衰滅の危機にある。
本来、動物保護が目指すのは、人と自然との間に生じた歪んだ関係をあるべき姿にもどすことのはずだ。なのに何故、環境に適応して暮らしてきた彼らの生活や文化が脅かされなければならないのだろうか。
本書に記されるのは、そうならなければならなかった、その歴史的な必然性だともいえる。
本書は動物記で有名な作家シートン、写真家星野道夫、映画『ザ・コーヴ』という3つのテーマから人と動物との関係を考察している。
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source : 文藝春秋 2021年3月号