ケネス・B・パイル著、山岡 由美訳「アメリカの世紀と日本 黒船から安倍政権まで」

文春BOOK倶楽部

片山 杜秀 評論家
エンタメ 読書

冷戦下で日本を“特別待遇”

 無条件降伏。本書のキイワードだ。対米英への「開戦ノ詔勅」を読めば、日本の戦争目的は「東亜永遠ノ平和」、即ち大東亜共栄圏の確立と分かる。なら、米英がアジアから退くのが、日本の講和条件だったと考えられる。

 では、米国の戦争目的は? 開戦前、米国は日本に中国等から手を引くことを求めていた。なら、日本がそうすれば講和可能だったか。否だ。米国の戦争目的は開戦直後に過激化した。アジアでの覇権争いは、軍国日本への聖戦に化けた。米国は世界に自由と民主主義を広める使命を有する。日本を占領し、根底から改造せねばならない。だから無条件降伏あるのみ。いかなる講和条件も口にできぬ程まで叩き潰さねば、戦争は終わらない。原爆使用も辞さず。

 そもそも無条件降伏なんて概念が乱暴すぎる。例えば南北戦争では北軍が南軍に無条件降伏を迫った。が、それは内戦だ。北は南を反乱軍とみなし、反乱者は犯罪者として扱われる。そんな理屈を米国は日本に適用した。だから東京裁判にもなる。

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source : 文藝春秋 2021年3月号

genre : エンタメ 読書